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     VOL.100/ 2 0 1 3.7 .31 (WED) 発行

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中国の台頭と一極集中リスク分散化投資

 2000年代の中国経済の台頭には、目を見張るものがある。2000−2012年
の年平均GDP成長率は10%を超え、GDP規模はこの間6.4倍に拡大、2010年に
は米国に次いで世界第二の経済大国に浮上した。このため、中国の1人当た
りGDPも、2001年1000ドルから、2006年2000ドル、2008年3000ドル、2010年
4000ドル、2011年5000ドル、そして2012年には6000ドルを超えた。
 こうした背景には、中国製造業の高度化がある。中国の発展モデルは、
1990年代までは外資系企業を中心に原材料や部品等を日本など海外から輸
入し、中国で加工・組み立てたあと、米欧日など先進諸国へ輸出するという
ものであった。ところが、中国がWTO加盟したことで外資系企業の中国リス
クに対する認識は一変し、高品質な機械設備を備えて素材や部品等を製造
するサップライヤーの進出が相次いだ。このため、2000年代に入ると、中
国の輸出は、従来の消費財中心から資本財、部品・加工品(中間財)へと
多様化し、著しい増加を見せた。
  しかし、中国経済の台頭に伴い、構造問題が顕在化し、中国リスクは年
々高まっている。2000年代中頃から沿海部を中心に人件費上昇や労働力不
足などが顕在化したほか、経済格差の拡大、汚職・腐敗の深刻化による暴動
・デモの多発、また最近では歴史認識や領土問題に伴う反日運動や日本製
品ボイコットなど政治、社会リスクも深刻化している。
  こうした状況下、中国経済のけん引役であった外資系企業の間で、中国
一極集中を回避するための分散化投資が加速。また複数の拠点を持てない
中小企業においても、人件費上昇や労働力不足を回避するため生産拠点を
アジアの他国へ移転する動きが活発化している。
  繊維・履物では、ユニクロ、トリンプ、ナイキ、アディダスなどは中国
からインドネシア、ベトナム、カンボジアなどへ生産拠点を移転している。
ユニクロは2010年前後から中国生産比率80%を低減するためにバングラデ
ッシュ、ベトナム(ホーチミン)インドネシアへ生産拠点の一部を移転。
またトリンプは90%の中国生産比率を50%以下まで低減すべく、納入先に生
産シフトを促している。また、ナイキは2009年に中国での生産を停止、ア
ディダスは2012年10月に中国蘇州工場の閉鎖を決めた。
  電機電子では、華南に集積しているプリンター、携帯電話などの分野で
中国離れが目立つ。エプソンは小型プリンターをインドネシア、インクジ
ェットの生産をフィリピンへ、キャノンは珠海、中山の工場をベトナムへ
移転、またリコーとブラザーはカートリッジを中国以外の国へシフトした。
またデジカメのオリンパスも華南を撤退した。
 携帯電話の分野では、iPhoneは中国から撤退の姿勢を強めている。また、
サムスンは2009年にハノイ郊外に進出後、次々と拡張計画を打ち出し、ベ
トナムを携帯電話生産の世界戦略拠点にと目論んでいる。ノキアも2012年
4月にハノイ郊外に進出、13年から操業する。これに伴い、関連会社の京セ
ラ、パナソニック、日本電産などの投資も増えている。
  こうしたチャイナ・プラス1に見られるリスク分散投資の動きは、日系企
業の場合、今のところ撤退して移転するケースは少なく、多くは拡張のた
めの拠点を他国に設けるケースが多い。しかし、米欧企業や一部の日本企
業では、中国リスクの高まりと知的財産権保護の観点から、内需以外の輸
出生産拠点をアジアの他地域へ移転する動きも散見される。
  アジア経済連携の進展と中国一極集中リスクの高まりで、アジアの産業
地図は再び塗り替えられようとしている。それはまた、40年前に一世を風
靡した雁行形態論を彷彿させる。

              (地域経済研究所 教授 丸屋 豊二郎)


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