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     VOL.101/ 2 0 1 3.8 .30 (FRI) 発行

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コラム「長岡市における市役所庁舎の新しいかたち」

  新潟県長岡市では、移転を契機にした市役所庁舎の新しいかたちを実現し、
それを核としたまちづくりが進められようとしている。本コラムでは、こ
の「シティホールプラザ アオーレ長岡」と呼ばれる新庁舎の特徴を簡単に
紹介する。
【単一 → 複合】
  新庁舎は、市役所機能に特化した単一機能ではなく、市民が気軽に集う
ことを目的とした施設や空間を配置するなど、複合機能で構成されている。
市役所の本庁機能が入居する東棟、議場と市民活動拠点からなる西棟、ア
リーナ、そしてこれら3棟に囲まれた屋根付き広場のナカドマが配置されて
いる。市の職員と市役所に用事のある市民、スポーツやサークル活動を行
う市民、飲食や待ち合わせや展示会等を行う市民がまさに入り乱れている。
  この複合機能化により、一般的な市役所とは異なり多様な目的を持った
多様な利用者がここに集い、機能間の相乗効果も相まって新庁舎は大きな
集客力を持つ"市の顔"となっている。
【独立 → 融合】
  複数の機能をモザイク状に配置するだけでなく、各機能が互いに融け込
むような空間づくりを行っている。市役所業務や議会が行われる部屋の外
壁はほぼ一面がガラス張りとなっており、アリーナも大開口扉を開けばナ
カドマと一体化するなど、気軽に立ち入ることが可能な通路や広場から、
中の様子が丸見えになっている。
  行政情報の公開、行政施策の市民への説明責任、さらには施策立案にお
ける市民参加や協働のまちづくり等、開かれた市役所がますます求められ
るようになってきている。そのような状況の下、庁舎や執務室そのものを
"見える化"するという試みは大変興味深いものである。
【郊外 → 中心】
  郊外に立地していた市役所を、中心部のJR長岡駅に近接した場所へと移
転した。駅舎からはペデストリアンデッキで直結され、雨や雪を心配する
ことなくアクセスすることが可能である。厚生会館の跡地活用に伴い、市
役所そのものをその駅前の一等地に持ってくることで、市民協働・交流の
拠点として最大限に活用するものである。市民は、様々な交通手段でアク
セスが可能であり、かつ中心部のシンボルともなったこの空間において、
発表や交流の場、自由にくつろげる居場所を見出すこととなった。
  中心市街地活性化が目的ではないものの、市役所職員の消費が周辺商店
街等へ与えるプラスの影響は少なくない。また、新庁舎に集う市民のボリ
ュームは、周辺地域への波及効果を期待させるに十分なものである。空洞
化が進む中心市街地周辺において、新たな商業施設の誘致等による活性化
ではなく、まずはいかにして人を集めるかという点に絞ったという点で、
長岡市の取組は他都市にとっても大いに参考になるものである。
【集中 → 分散】
  市役所機能はこのアオーレ長岡を含めて中心部の3ヶ所に分散されており、
これらは徒歩数分で移動可能な距離にある。あえて分散配置にしたのは、
市役所職員等による回遊性やまちなかのにぎわい創出を意図したためであ
り、さらには市役所がまちに融け込んでいるということを象徴的に表すも
のでもある。一方で、遊休地の活用や空き店舗対策という側面が存在する
ことも否定はできない。
  ITの活用等により、市役所内での情報共有やコミュニケーションという
観点から見て、どの程度までの分散配置が許容されるのか、そして、市民
の利便性や協働のまちづくりという観点から見て、どのような形態が望ま
しいのか等、今日における市役所庁舎のあり方が問われている。長岡市の
事例は、地域の実情を踏まえた上で、これに対する一つの解を示したもの
と言えよう。

                                (地域経済研究所 講師 江川誠一)



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