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     VOL.103/ 2 0 1 3.10 .31 (THU) 発行

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「日本のソフトパワーと国際ルール」

 テレビドラマ「あまちゃん」「半沢直樹」の放映が終了した。ともに国
民的とも言える大ヒット作となり、久々に視聴者に熱狂的な支持を受けた。
粗製濫造とも言われた日本ドラマだったが、両作品ともストーリー性、個
性派俳優陣、好演出が揃ったと言われる。日本人のテレビ離れが続く中で、
このようなドラマを制作することが、いかに重要であるかをテレビ業界に
おいても再認識したのではないだろうか。番組表に多数並ぶ韓流ドラマに
食傷気味の向きには、日本のドラマの質の高さを改めて見直したことだろ
う。「半沢直樹」は日本での放映とほぼ同時に中国語に翻訳され、キャプ
ション付きの動画がネットやDVDで翌日には流通したという。そして中国人
視聴者の間で大人気を博したと聞く。日本でも中国でも、良いものは良い、
面白いものは面白い、という証であろう。
 日本の文化やソフトパワーが強みとして強調されることが多くなった。
特に日本製アニメに代表されるコンテンツは、その群を抜いた繊細さと創
作力で世界中に多数の根強いファンがいることが良く知られている。しか
しここで大きな問題になるのは、日本から輸出される場合、こうした「財」
はいとも簡単にコピーができることだ。いわゆる海賊版という形で、日本
の制作者に無断かつ無償で広まってしまうことが大きな障害となる。これ
は日本との文化交流であるなどと喜んでいる場合ではない。れっきとした
知的財産権の侵害でもあるからだ。
 さる国では、PCのソフトウェアであるアメリカ企業製のOSを違法コピー
して軍ぐるみで使用していたことが明るみに出て、アメリカから厳しい制
裁を受けている。こうした物理的に形のないソフトウェアやコンテンツに
対する認識は、欧米とアジアでまだ大きな差があるのも事実である。特に
アジアにおいては、コピー・模造しても「見つからなければ良い」といっ
た風潮がまだ強い。1995年にGATTからWTOに移行して20年近く経過した。
WTO加盟国は知的財産権についての保護規定TRIPS協定が適用される。そし
て知的財産権は国際法、国内法の双方で守られるべきものとして啓蒙され
てきた。日本では各省庁の取り組みと共に、数年前には今回のような映像
コンテンツ大国をめざすためのガイドラインも検討されている。しかし有
名ブランド品の模造品などと並んで、日本の上記のようなコンテンツは特
定のアジアの国ではネット普及と相まって、実質的に野放し状態であると
言って良いだろう。
 日本が2013年7月に正式参加を決定し現在交渉中のTPP(環太平洋パート
ナーシップ協定)においては、作業部会21分野の一つである知的財産権に
ついては加盟国に厳しい規制を求める見込みである。これはTPPによるルー
ルメイキング(国際ルール作り)によって、あらゆる産業分野で技術・考
案のフリーライド(ただ乗り)や著作権の侵害を許さない、という方向に
世界が向かうことも示している。高い技術をもった日本にとっては是非と
も積極的に推進すべき事項である。またアジアの国に対しては、途上国で
あってもなくても、国際ルールを守ることの重要性を納得させ、受け入れ
させてゆく必要がある。そうでなければアジアは知的財産権についての無
法地帯としての扱いを受けることになる。
 日本企業の海外進出は製造業によるもの作りという段階から、先進国型
と言われるサービス貿易が加わったものになりつつある。さらに日本では
こうしたコンテンツ・ビジネスのような分野が次世代有力産業の一つとな
るとも言われている。そのためには知的財産権に守られながら、国際ルー
ルを守らない者に対しては対抗措置も辞さない覚悟が必要になるだろう。

                (地域経済研究所 教授 春日 尚雄)


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