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     VOL.104/ 2 0 1 3.11 .29 (FRI) 発行

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行政評価と消費税と幸福度を結びつけることから考える地域政策の未来

 10月から11月にかけて、筆者は行政評価と消費税と幸福度について考え
る機会があった。3つとも地域にとって重要なテーマであるが、筆者が別々
の地域に対してたまたま同時期に考えただけであり、それらの関連性は強
くないように見える。しかしながら、様々な資料をたどり、思考を重ねる
につれて、これら3つを結びつけることが地域政策の未来に深く関わってい
ることに気づいた。
 地域政策は1990年代以降、地方分権の進展により財源と権限の面で独自
性を発揮できる余地が広がってきた。つまり、これまでの分権改革は地方
自治体の事務量や予算規模を増やすのではなく、国の地方に対する関与を
縮小し地方の裁量を広げるものであった。端的に言えば、国と地方の関係
を見直すことが分権改革の中心であり、今後は新たな側面として地方自治
体と住民の関係を強化することが重要になるだろう。必要かつ有効な地域
政策を進めるためには、地方自治体の主体性とともに、地域住民の立場に
徹底的に立つことが条件となるからである(地方自治の用語では前者を団
体自治、後者を住民自治という)。
 そのためには、すでに各地で行われている行政評価を進化させ、住民の
幸福度や納税意識に結びつける形にすべきではないだろうか。
 行政評価は、住民目線に立ち費用対効果を重視した地域政策の評価手法
として90年代から全国に広がった。しかし、現在の予算書や各種計画等を
見る限り行政評価によって従来の地域政策が大きく変わったわけではなく、
地方自治体と住民の関係が十分に強まったとは言えない。国民負担率の低
い日本で消費税の増税が難しかったのは、政府と国民との信頼関係が低い
ことも影響していると考えられる。つまり、国民の税負担への抵抗は負担
の大きさではなく政府への信頼度に関係している、との指摘である(井出
英策「日本財政 転換の指針」岩波新書)。今回の増税でも財政再建には
程遠いことや国も地方も財政状況がますます厳しくなることを考えるなら
ば、今後の増税議論では地方も主体的に関わる必要がある。そこで、増税
時代を見据えて地域住民に身近な地方自治体が住民との関係を強化するこ
とが重要な課題であり、そのためには行政評価の進化が求められるだろう。
 では、行政評価の進化とはどのようなものか。その1つが幸福度の把握
である。行政評価は地域政策の費用対効果を客観的に把握するため、効果
を数値で表現する。しかしながら統計等で把握できるデータは限られてお
り、多くの地域で似通ったものにならざるを得ない。また、それらの数値
が本当に住民への効果を表すものかどうか検証する機会が少ない。そのた
め、行政評価でも住民目線に立つことには限界があった。それが最近にな
って「幸福」「希望」などの表現で地域住民の状態を詳しく表現する試み
が増えている。東京都荒川区では「荒川区民総幸福度(GAH)」の向上を宣
言し、福井県も「幸福度日本一」として脚光を浴びるだけでなく「ふるさ
と希望指数(LHI)」の研究を行った。これらは住民の立場で地域の状態を
表す手法をあらためて開発することであり、幸福度が行政評価との結びつ
きによって地域政策に還元されれば地方自治体と住民との関係が強化され
ると期待できる。
 今回とりあげたテーマはいずれも地域政策にとって重要であり、現在は
別々に議論されているにすぎないが、これら3つをつなげることによって地
域政策の未来が大きく切り開かれるのではないか、とひそかに期待してい
る。

              (地域経済研究所 地域経済部門 講師 井上 武史)


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