========地域経済研究所 eメールマガジン========

  VOL.10/2006.1.30(MON)発行

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■特集 地域振興と地場産品の地域ブランド化について考える
 近年多くの産地では地場産品のブランド化を推し進めている。こうした 取り組みは「地場産品の地域ブランド化」として知られ、注目を集めてい る。そこで今回はこうした地域ブランド化が注目される背景を検討したう えで、方策について言及することにしたい。
 さて、本稿でいう地場産品の地域ブランド化戦略とは、地場産品に「正」 のイメージを付加することにより、産品の高付加価値化を目的とし、ひい ては地域全体の振興につなげるための戦略である。ただしここで注意しな ければならないのは、一言で地域ブランド化といっても、その方向性の違 いから2つの地域ブランド化の方向が存在するということである。一つ目 の地域ブランド化の方向性とは、客観的に品質に優れた産品を地域全体で 作り上げていこうということであり、この場合地域ブランドの付与される 「正」のイメージとは、高級感や存在感等となる。もう一つの方向性とし ては地域の歴史や文化等のイメージを産品に付加するというものである。 現在多くの産地が志向しているのは前者の方向性であり、両者は区別して 考える必要がある。
 それでは地場産品の地域ブランド化が注目される理由とは何か。まず一 つめの理由として、いくつかの地域ではこれまで地域経済を支えてきた地 場産業が現在極めて困難な状況にあるということがあげられる。しばしば 新たな取り組みが行われる背景として、極めて困難な状況を打破しようと いう動きが契機となる場合がある。現在多くの産地は存亡の危機にあり、 こうした状況を何とか変えたいという思いや動きが、地域ブランド化が注 目される背景にある。また地域振興策との関わり合いから考えれば、従来 の地域振興策の限界ということがあげられる。これまでの地域振興策のひ とつの標準は、工業団地等の社会資本(いわゆるインフラ)の整備と工場 を中心とした企業誘致が中心であったが、経済がグローバル化し企業誘致 における「地域間競争」が激しくなる中で、多くの地域では工場を誘致す るこが難しくなりつつある。また、仮に企業誘致に成功したとしても実際 には雇用や外注の面で地域が期待していたほどの効果が得られない等の問 題(中村剛治郎『地域政治経済学』有斐閣、2004年)が指摘されるように なった。こうした中で、地域の資源を改めて見つめなおし、それを地域振 興策として活用していこうという動きがみられるようになったと考えられ る。さらには、工業化社会からポスト工業化社会へという社会・経済上の 変化があげられる。これまでの経済の推進力は、産業革命以降ずっと工業 であった。こうした「工業化社会」では大量生産に基づく「標準品」「画 一化」が重視されてきた。しかし今後の知識経済を中心とした「ポスト工 業化社会」では「多様化」「個性」が重視されるようになる。こうした中 で、地域の持つ固有の価値が改めて見直され始めている。
 上記背景のもとで、今後ますます多くの産地が地場産品の地域ブランド 化を推進していくことが予想される。そこで以下では地場産品の地域ブラ ンド化を図る上での若干のポイントについて言及することにしたい。まず 何よりも地域住民から愛されるブランドでなければならない。地域ブラン ド化の推進は、そもそも地域の人々が自らの地域を愛し、自らの地域が作 り出す産品に誇りを持っていなければ、消費者の心をとらえることはでき ない。重要なのは「地域住民が好きだからこそ遠方の消費者に愛される」 のであり、「遠方の消費者に愛されるためにそれにあわせて産品をつくる」 のではない。地域ブランドはまず何よりも地元の人々から愛されるもので なければならないのである。第二に基本機能としての安心・安全の創出が 重要となる。近年「食」の分野を中心に安心・安全ということが改めて注 目をされている。こうした背景にはBSE問題やリコール隠しといった事件 が頻発し、これまでは当然と思われていた産品の安心・安全に対する消費 者の信頼が大きく揺らいでいるという現状がある。本来最も基本的な機能 である安心・安全を創出し、またそれを消費者にアピールしていくことが 求められている。第三に川下と川上の一体的管理が必要である。地域ブラ ンドの形成においては、ただ「良い」ものを作ればよいというわけではな く、それを消費者に理解してもらう必要がある。そのためには、販売者が 生産者の思いなどを消費者に伝え、そのブランドがもつ「良さ」を消費者 に理解してもらうことが重要となる。しかしながら、生産から販売までが 長く複雑な流通経路によって隔たっていた場合、こうしたことは困難にな る。こうしたことから地域ブランドの育成には川上(生産)と川下(販売) の一体的な管理が必要となるのである。第四に地域ブランド化の推進には、 産地においてリーダー(旗振り役、管理者)が必要であり、同時にそのリ ーダーの下で産地を組織化し、産地全体として地場産品のブランド化を推 進する必要がある。第五に可能な限り地域住民の手で進める必要がある。 企画や実施を外部の企業に頼るのは確かに容易かもしれない。しかしそれ ではせっかくの地域の資産である地域ブランドから生まれる利益が外部に 流失してしまう危険性があるのである。松阪牛などのいくつかの成功して いる事例でも、ほとんどが地域によって担われている。このように、地域 住民の手による地域ブランド化を推進することは、ひいては地域経済の振 興へとつながることになるのである。
 いずれにしても、地場産品の地域ブランド化戦略は、地域振興の新たな 可能性を秘めている。福井県においても地域ともに発展するブランドが創 造され、地域全体が豊かになることを願う次第である。
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本原稿は『平成17年度版 福井県の経済』(ふくい産業支援センター、 2006年2月発行予定)の第2部「本県地場産業の地域ブランド化戦略」の内 容を抜粋したものである。
(地域経済研究所・榊原雄一郎)          このウィンドウを閉じる