========地域経済研究所 eメールマガジン========

  VOL.13/2006.4.27(THU)発行

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■特集 地域産業におけるグローバル化の進展とその効果

 地域産業を取り巻く諸問題の一つとして、グローバル化の進展による産
業空洞化の問題が採り上げられて久しい。1985年のプラザ合意以降、急激
に進展したグローバル化、とりわけ日本企業の海外進出は、地域での生産
減少、雇用の喪失、経済活力の低下など様々な負の影響をもたらした。例
えば、福井県を代表する繊維業界では、衣料分野で原糸メーカー主導の国
際展開が進んだ結果、現在、東アジア諸国の追い上げのなかでその生産規
模を縮小させている。また、眼鏡業界でも産地企業の海外シフト進展によ
る結果現象として、大勢を占める小規模零細企業を中心に、2000年以降、
海外製品の流入に悩まされている。
 しかしながら、グローバル化の進展をよくよく考えると、こうした負の
影響がある半面、一方では地域の企業に新たなビジネスチャンスをもたら
している一面も見逃せない。
 例えば、積極的に国際的分業体制を構築した産業では生産拡大と輸入の
増加が実現したことや、海外生産の拡大によって生産設備や部品輸出が増
えたこと、さらに海外生産によって国内では高付加価値品や高度な技術を
要する製品へとシフトすることで新たなビジネスチャンスが生まれたこと
など、こうした事実はグローバル化の進展が必ずしも負の影響だけをもた
らすものではないことを証明している。
 では、グローバル化による正の効果とは何か。これまでの事例からそれ
を整理すると、以下の3つの効果を挙げることができる。
 第一の効果は、労務コストの安い海外に生産拠点をシフトすることで価
格競争力を保持できること。製造業の製品群には、量産定番品と呼ばれる
分野があり、こうした分野は価格も比較的低廉でコスト競争力を問われる
ケースが多い。そのため、こうした量産定番品の分野は、コストに比較優
位を求められる海外にOEM生産等により委託することで、価格競争力を保
持することが可能となる。その上で、自社では、高機能・高付加価値品の
生産に集中する。国際分業の最もオーソドックスな考え方であり、本県で
は繊維業界や眼鏡業界等多くの業種で、このような海外展開方式が採られ
て来た。この場合の留意点としては、海外委託先では生産管理技術・品質
管理技術の指導をこまめに行い、自社の取引先(顧客)に対し持続的な品
質保証を確保することである。こうした点を踏まえれば、グローバル化が
単なる価格競争力の保持だけではなく、自社の技術力向上を果たすための
必要な戦略として位置づけることも可能となる。
 第二の効果は、国内営業への好循環効果である。これまで、我が国の製
造業における生産拠点の海外シフトは、国内市場での価格競争力確保をメ
インとしながらも、貿易面でもコスト優位に立つことを主眼に実施されて
きた。しかし、近年は、こうした理由以外に、海外市場そのものに注目し
た生産拠点のシフトが進んでいる。例えば、前述した繊維業界では、現地
販売を主目的とした生産拠点の海外シフトがニット・レース業等を中心に
早くから行われてきた。また、眼鏡業界でも、グローバル化戦略として世
界市場或いは中国市場を目的とした生産拠点シフトが進んだほか、化学メ
ーカーでも現地繊維メーカーとの取引を目的としたシフトが世界的に進ん
だ。この要因は、縮小しつつある国内市場のみに着目しても将来的な成長
が望めないことも挙げられるが、それ以外に主要取引先の海外移転を含め
海外での取引先確保に目処が立ち、その結果として正の効果が生まれてい
ることを示唆している。具体的には、日系企業への供給を含めた現地販売、
周辺地域への販売など海外市場での取引が進展することで、これまで取引
が無かった日系企業の日本国内本社との取引が始まるという好循環が生ま
れているのである。
 第三の効果は、海外市場で高評価を受けた製品のブランド力向上効果で
ある。この効果を得るには、現地市場における生産・販売により高評価を
受けての逆輸入効果の場合と、国内生産した製品を輸出し海外の販売拠点
で販売した結果、高評価を受け国内生産が高まる場合の2つのパターンが
考えられる。いずれの場合も海外市場で高い評価を受けたことが、展示会・
口コミなどの形で国内に還流し、国内でのブランド力が一気に向上すると
いった効果が期待できる。インターネットの普及により、米国から欧州へ、
欧州から日本へといった製品評価の伝達範囲はいまや一国、一地域にとど
まらない時代をむかえている。つまり、宣伝力に乏しい中小企業にとって
は、グローバル化を販売戦略上の重要なツールとして位置づけることが可
能となるのである。
 以上、グローバル化進展による正の効果を3つ挙げたが、今後、世界的
な市場融合が進む中、地域の産業・企業においてはグローバル化の必要性
が今以上に高まることが予想される。その場合、これら正の効果を意識し
た有効な戦略を立てることで、個々の企業のグローバル化が成功に結びつ
くことを期待したい。
                    (地域経済研究所・南保 勝)


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