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 VOL.1 7 / 2 0 0 6. 8 .30 (WEN) 発行

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▽特集  自治体「倒産」の時代

 かつて炭鉱で栄えた北海道夕張市が、巨額の負債のため財政再建団体の
申請をおこなった。自治体の財政再建団体への転落は1992年の福岡県田川
郡旧赤池町(現田川郡福智町)以来となる。自治体の財政再建団体への転
落は民間企業でいえば倒産にあたる。そのため、多くのマスメディアは自
治体の「倒産」として大々的に取り上げ、多くの注目を集めている。また、
夕張市以外にも「倒産」寸前という自治体は数多く存在している。そこで
今回は北海道夕張市の問題について取り上げることにしたい。
 さて、夕張市が巨額の負債を抱えたのは、かつての同市の中心産業であ
った石炭産業の撤退に対して、「炭鉱から観光へ」の転換をはかるために、
テーマパークやスキー場の開設、映画祭などのイベントの開催などを次々
と行ったことによる。こうした過大な投資が市の財政を圧迫したのである。
多くのメディアでは、このような放漫な財政運営に対する自治体の責任を
指摘している。しかしながら、夕張市「倒産」の原因は何も財政運営にの
みあるわけではない。夕張市の「倒産」は、エネルギー構造の転換という
非常に大きな時代のうねりの中で、同市最大の重要産業であった石炭産業
の撤退の中でおこったものである。この点を地域経済の発展という視点か
ら慎重に考えてみる必要がある。
 夕張市に限らず、多くの旧炭鉱都市は閉山後、極めて急速な地域経済の
衰退を経験している。これは構造不況業種などの衰退産業の企業城下町で
もほぼ同様の状況である。自治体は様々な振興策を打ち出すが、多くの場
合衰退を食い止めるに至らず、ずるずるとそして急速に衰退していくこと
になる。その意味で、こうした大きなうねりの中では、自治体の対処療法
的な活動はあまりに無力なのである。夕張市の「倒産」は、エネルギーの
転換という「外部環境」のうねりに翻弄される地方小都市という側面をも
っていることも理解する必要がある。夕張市などの旧炭鉱都市や衰退産業
の企業城下町など、地方圏のいくつかの都市では外部で起こっている様々
な変化によって地域経済の衰退を余儀なくされている。ここに地域経済の
盛衰が外部の状況に左右されるという、日本の地方自治体が抱える苦悩を
垣間見ることができる。
 日本の地域経済学の大家である宮本憲一氏(前滋賀大学学長)は、地域
経済における「内発的発展」の重要性を主張する。地域の命運が、地域の
手の及ばない外部環境に左右されることがないようにするためにも、内発
的発展を目指すべきであるという。夕張市の教訓を他山の石とするために
も、自治体は改めて地域経済の内発的発展の重要性について認識する必要
があるのではないか。
                     (研究所・客 榊原雄一郎)


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