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 VOL.18 / 2 0 0 6. 9 .29 (FRI) 発行

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▽特集  「 企業経営と会社法規制 」 

 このところ、企業の合併、買収、グループ企業の再編成等の動きが著し
い。経済のグローバル化にともなう厳しい環境の下、ますますこの傾向は
強まるものと思われる。そして、法律面でもこういった現状に適合すべく、
「会社」に関する法規制も、これまでの会社に対する概念を超えた、大幅
な改正が頻繁に行われている。
  このような現状は、これまでの我国における「会社」に対する考え方に
も変化を与えている。従来我国では会社は「我社」であり、多くの場合社
是、社訓と言ったものを柱とする各社独特の企業文化というようなものを
持っていた。そして、各社は自らの努力によってその業容拡大・発展に努
力すべきもので、必死で競争している相手と統合したり、あるいは競争会
社の買収を図ったりするようなことは、経営破綻とか余程の事情がない限
りあまり行われていなかった。こういった感覚は現在でもなお多くの経営
者、従業員が共有しているのではないかと思われる。また、これまでわが
国では行われないであろうと言われていた敵対的買収についても、周知の
とおり最近数多くの事例が見られ、改めて「会社は誰のものか」といった
議論を引き起こしている。企業の経営者としては、こういった最近の変化
を十分認識し、自らの組織の再編、他企業との統合などの可能性、並びに
企業買収に備えた対応などについても経営課題として柔軟に対応すること
を念頭におかなければならない。そして、このためには、関係する法規制
の基本を知った上で、必要に応じて専門家に相談できる体制を整えておく
ことが肝要といえる。
  企業の再編に関しては最近一連の法改正が行われているが、この端緒は
平成9年に行われた独占禁止法9条の改正、「純粋持株会社の解禁」である。
改正前の 9条は、純粋持株会社、即ち株式の保有を通じて企業を支配する
ことを目的とする会社を禁止していた。この持株会社禁止の条項は、戦前
の財閥が一大起業集団(コンツェルン)を構成し日本経済を実質的に支配
していた、といった反省から、戦後制定された独占禁止法によって厳禁さ
れたものである。この条項が、偶然の一致ではあるが「 独占禁止法9条 」
であったことから、「憲法9条」と並んで、 戦後の経済秩序維持の原点と
して永らく改正などの議論は差し控えられてきた経緯がある。しかしこう
いった持株会社は諸外国においては一般に行われていることであり、また
これを認めても戦前の財閥のような状況に至るようなことはまず考えられ
ないことなどから、経済界から強い要望に応えて、憲法に先立ち 平成9年
に改正されたものである。
  その後、平成11年には「株式移転」「株式交換」の制度が新設された。
これらの制度は、会社の株主総会の決議によって、当該会社の株式の新設
会社への移転、あるいは他の既存の会社株式との交換を実現させるもので、
いわば株式の強制移転・交換を認める制度である。これにより、上記独占
禁止法の改正によって認められた純粋持株会社の100% 子会社となること
が容易となった。また、平成12年には「会社分割」制度が新設された。従
来我国の商法では会社の「合併」は認められていたが分割は認められてい
なかった。この点についても柔軟な企業の再編成を行えるよう、会社の分
割が認められたものである。これら改正により、株式交換・移転、また会
社分割を組み合わせて既存企業の所謂「選択と集中」を可能にする組織の
統廃合、企業の再編成などに関して多くの可能性が与えられた。
一方、株式の取得による企業買収については、従来から可能であった。た
だし、株式を上場するということは、一定のルールに従えば誰でも、自由
に、いくらでもその会社の株式を買える、そして結果として乗っ取られる
こともありうる、という認識・危機意識はこれまでは殆どの経営者になか
ったと言えよう。上場企業にとって、今後はこういったリスクに備えた対
応が必要であることは論を俟たない。また、これから上場を検討する企業
としては、株式上場が一流企業の証であるというような価値観だけでなく、
上場の目的、またその危険性についても認識して判断をすることが必要で
あろう。

                    (研究所所長 中山 義壽)


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