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 VOL.19 / 2 0 0 6. 10 .30 (MON) 発行

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▽特集 「企業価値とコーポレートガバナンス」

 ライブドアのホリエモンで一躍有名になった企業価値であるが、企業
価値とは「株主から見た場合、資本を投下している企業が付加価値を生
み出しているかどうか」という意味である。これは、株主の立場になれ
ば理解が早い。もし自分が投資した企業が倒産した場合、株主は最も劣
位の債権者になる。つまり、株主は非常にハイリスクな立場にある。そ
れゆえ、株主は当該企業にハイリターンを求める。もしハイリスクを求
める必要がなければ最も安全でリスクのない国債を買っていればよい。
米国債の場合、およそ4%程度の利回りが約束されている。しかし、あ
る企業に資本を投下した場合、株主にすれば他の選択肢を放棄してでも
その企業の成長性に期待して投資したことになる。したがって当然のこ
とながら国債の利回り以上のものを期待する。通常、株主が求める投資
リターン率は「国債の利回り+α(アルファー)」で、αはリスクプレ
ミアムと呼ばれ、米国ではおよそ5%程度が相場であるとされている。
 企業価値が注目を浴びてきた背景には日本独特の株式持合いの崩壊が
深く関わっている。戦後の混乱から脱却した日本の企業経営は終身雇用
を前提とした従業員重視経営を実践してきた。企業が従業員を最も重視
した経営を行った結果、日本経済が発展してきたことは否定できない事
実である。年功序列による人事制度、退職金制度、企業年金制度等、従
業員を長く安定的に雇用することにより企業へのロイヤリティを高めて
きた。このシステムのベースになっていたのが株式持合いである。株式
持合いは安定した株主構造を構築し、経営者にとっては株主の意向を気
にせず経営に専念することができる。この仕組みが長く従業員を雇用で
きる礎となっていた。しかし、1990年代に入りこうした経営手法は通用
しなくなった。この原因は2つ考えられる。第一は会計ビックバンに伴
って導入された時価評価を契機とする株式持合いの崩壊である。保有す
る有価証券の時価評価により毎期の利益や株主資本がその都度変動し、
それに伴いROE(株主資本利益率)等の経営指標が変動する。こうしたリ
スクを回避するためには保有する有価証券を売却する以外にない。これ
が持合い株式の放出を招いた。第二は放出された株式を外国人投資家が
取得したことである。外国人の持株比率は上昇し、彼らは経済原理だけ
で行動するため従来の安定株主構造に大きな変化をもたらした。その結
果、M&Aの対象になる企業が増加した。PBR(株価純資産倍率)が1を下
回れば買収の対象になり、こうした株主の動きを回避するには資本生産
性を高めるしか方法がない。
 現在、日本の企業経営は難しい局面に入っている。企業を取り巻くス
テークホルダー(利害関係者)は様々である。株主は常に利益が向上す
る企業の能力を高く評価し、経営陣・社員は事業の存続に重きを置き、
消費者は高品質で廉価な商品を期待する。また、規制当局は消費者保護
を目指す一方、市場の長期的健全性を望み、格付機関は投資家が要求す
る債務の履行が責務である。企業はこうしたすべてのステークホルダー
を満足させなければならないが、なかでも株主価値の存在は無視できな
いものになっている。なぜならば、企業は株主を満足するだけの利益を
提供しなければ企業自体が存続し得ないからである。企業は誰のために
経営されるべきなのかという企業経営に関する基本的な認識を多くの日
本企業は改める時期に来ている。これがコーポレートガバナンス(企業
統治)の問題である。
                 (地域経済研究所・岩瀬 泰弘)


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