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 VOL.20 / 2 0 0 6. 11 .30 (THU) 発行

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▽ 特集「21世紀のもの造りをリードする「整流生産方式」」        

 21世紀のもの造りを主導する生産方式が、「流れ生産方式」の方向
に向かっていることは間違いない。ところが、「流れ生産方式」という
用語は、明確な概念規定のない、印象的な用語である。そこで、私はこ
の問題に関心のある研究者と生産管理担当者10数人と研究会(全体最
適システム研究会)を立ち上げ、約2年間の検討の結果を『「整流」に
よるもの造り――トヨタ生産方式を導く八つの原則――』(東洋経済新
報社、2005年)にまとめた。
 この書の「整流」「整流化」論の出版には、初めの意気込みどおりの
成果があったとはいえない。数少ない反響の中から、この企画が予定通
りにいかなかった理由を探ることを介して、21世紀のもの造りの主導
する生産方式の追求が難しいことを明らかにしたい。
 「流れ生産」とは大ロット生産と対立する方式であり、その最先端を
走っているのはトヨタ生産方式である。ただし、トヨタ生産方式だけで
なく、日産もまた総組立を軸に「順序確定」生産方式を試みており、こ
れは「整流化」と特徴づけることができる。
 「整流」という用語は、トヨタの経営者や技術者の文章の中にしばし
ば登場し、また海外工場の現場管理者を養成しているグローバル生産推
進センター(元町工場内)では「整流」を英語で「Streamlining」また
は「Maze(混ぜ)を取り除く努力」と呼んでいる。ところが、「整流」
とはどのような流れなのか、またトヨタ生産方式が「整流」を追求する
理由はなぜなのか、はいっこうに明らかではない。
 本書の「整流」の定義を掲げる。「整流」とは、(1)前後のライン(工
程)の対応関係が確定しており(1対1対応)、(2)最初の工程への投入
から最終工程の産出まで加工対象(ワーク)の順序が変わらないながれ
をいう。
 この定義から出発して、「整流」を追求する理由やそれを構築する方
法を検討している。なお、「整流」の反対は「乱流」である。
 本書に対する評価と批判の中から注目すべき見解を取り上げてみる。
「当社でもトヨタに学びすでに「乱流」から改善を進めて「整流化」を
試みているが、この「整流化」の手法は当社が苦労した独自の方法であ
り、開示することはできない。」
 トヨタ生産方式は他の企業に浸透しにくいと言われているが、この意
見のように浸透している企業では文字通り「整流」の表現でその仕組み
の構築を進めている企業がかなりあるようである。そして、生産方式は
各社の競争力の源泉であり、簡単に公表することはできない。理論と現
実との乖離は、最深のところではこの制約にぶつかる。それを乗り越え
た点に21世紀を主導する生産方式があるといえる。

             (地域経済研究所・招聘教授 佐武 弘章)


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