========地域経済研究所 eメールマガジン========

 VOL.22 / 2 0 0 7. 1 .30 (THU) 発行

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▽  組織における知識管理の新しい形 − 実践共同体(Community of 
    Practice)−

 団塊の世代の大量定年を前に、企業では熟練労働者の技術を後進に伝え
る取組が実施されている。熟練労働者に蓄積された技術は、マニュアル等
をつくることだけでは伝えることができず、徒弟制のように実践を通して
人から人へ受け継ぐしかない。企業の知識管理の現場で最近注目されてい
る「実践共同体」とは、このような熟練労働者の「暗黙知」を共有し、そ
のなかで新しい知識を創造する人のつながりである。このような共同体は、
組織の中だけで活動している場合もあるし、組織を超えて存在する場合も
ある。
 実践共同体とは、米国学習研究所のE.ウェンガーとJ.レイブが1991年に
提唱した考え方である。彼らは「共通の専門スキルや、ある事業へのコミ
ットメント(熱意や献身)によって非公式に結びついた人々の集まり」を
実践共同体と名づけた。現在、米国の企業ではすでに多くの企業がこの考
え方を取り入れて知識管理を行っている。また日本でも多くの企業が実践
共同体を核とした社内革新運動を立ち上げ始めている。彼らの主張で重要
なことは、知識管理として、情報を集めることではなく、人と人をつなぐ
ということを重視した点である。
 実践共同体は非公式なことが多いので、すでに企業内に存在する場合も
ある。組織内の実践共同体を認識し、それを育成するためには、E.ウェン
ガーらがいう実践共同体の以下の3つの成立要件に注意を向けることが有
用であろう。

(1)《領域》
  対象とする領域のこと。実践共同体の中ではこの領域に関する知識や
    情報が交換される

(2)《共同体》
  交流している人々の集団のこと。

(3)《実践》
  知識を生み出す活動を指す。形態としては定期的に顔を合わせる場合
  もあるだろうし、メール等を利用した活動の場合もある。

 これら3点に着目して組織内の実践共同体が認識できたら、次にそれら
を育成することを通じて、ダイナミックに知識を創造し共有することが可
能になる。ただし、実践共同体はメンバーの自発的な参加が大前提なので、
業務命令等で強制的に組織しても働かないと考えられるので、注意が必要
である。
 E.ウェンガーらは、ビジネスに限らず、世界のいたるところで、実践共
同体を核にした新しいうねりが起きていることを指摘している。今後、実
践共同体が組織の中核になるようなことが起こるかもしれない。

[参考書]
◎E.ウェンガー、R.マクダーモット、W.M.スナイダー著、「コミュニティ
 ・オブ
 ・プラクティス」、翔泳社、2002.
(実践共同体がビジネスにどういう役割を果たすか解説している)
◎J.レイブ、E.ウェンガー著、「状況に埋め込まれた学習  正統的周辺参
 加」、産業図書、1993.
(実践共同体に関わり人間がどのように学習を行うかを解説している)



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