========地域経済研究所 eメールマガジン========

 VOL.23 / 2 0 0 7. 2 .26 (MAN) 発行

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▽ コラム 不二家事件に見る企業経営者のリスクマネジメント
 

 不二家事件は、企業経営者の責任がいかに大きいかを改めて考えさせ
られた事件である。不二家の経営陣は、リスクマネジメントの基本中の
基本である「早期の情報開示と説明」を避け、2ヶ月もの間事実を伏せ
ていた。たしかに消費期限切れは重大なミスではあるが、それ以上にこ
うした経営陣の姿勢、やり方が世間の痛烈な批判を浴びたのである。
 昨今、企業の内部統制が叫ばれているが、勿論しっかりした内部統制
の仕組みを作れば、問題が発生した時にその影響をある程度抑えること
ができる。しかし、その前提となっているのは、あくまで"問題発覚後に
的確に対処する"という経営者の意識である。この意識が欠如していると、
企業はより多くのコストと大きな負荷を強いられる。
 リスクマネジメントは、分かったようで分からない言葉であるとの声
がよく聞かれる。それはリスクを「危険」と訳するからである。リスク
を定義すると、それだけで多くの紙面を割くが、一言で言うと「これか
ら先どうなるのか読めない」という「不確実性」である。ところが、世
間一般ではいまだにリスクを「危険」と訳している。このことがリスク
マネジメントの正しい理解を妨げている。リスクを大きく分けると、純
粋リスクと投機的リスクに分けることができる。ここで、純粋リスクと
は、建物の火災や地震のように、その方向性が「損失という一方向だけ
の不確実性」を言い、投機的リスクとは、為替リスクのように「利益も
あれば損失もある双方向の不確実性」を言う。又、リスクの責任者に目
を向ければ、国、都道府県、企業、個人等、その当事者は千差万別であ
る。
 しかし、一般にリスクマネジメントという場合は、企業経営のリスク
マネジメントを言う。すなわち、「リスクマネジメントとは、企業経営
にとって経済的な損失を生む不確実性」のことである。この場合、不確
実性とは「いつ起こるかわからない(=タイミング)」、「どの程度の
損失になるかわからない(=損害額)」という不確実性を指す。不二家
事件の例で言えば、目先の利益を優先し、2ヶ月もの間放置する事(タ
イミング)が、さらなる風評リスクを招き、より大きな経済損失(損害
額)を招くという不確実性に対する認識が不足していたのである。
 今日の経済では不確実性(リスク)はいたるところに存在している。
しかし、リスクを恐れていては何も行動ができない。私たちは、何らか
のリスク(不確実性)とともに生きているのである。雪道を毎日歩いて
いれば、転んで怪我をする可能性がないとは言えない。しかし、道で転
ぶリスクを恐れて外出しないという人は聞いたことがない。これは企業
活動においても同様である。いかなる企業も、その製品やサービスが何
であれ、多かれ少なかれリスクマネジメントのビジネスの中に居る。t-
homas A.Stewartは、フォーチュン2000年2月号「21世紀においてリスク
を経営すること」の中で次のように述べている。
『リスクは良いものである。リスクマネジメントのポイントはそれを取
り除くことではない。そんなことをすると報酬までなくしてしまう。重
要な事はそれを経営することである。すなわち、賭けをする場所と賭け
をしない場所とを選択することにある。』
 ややビジネスライクの感は否めないが、不二家事件で言えば、経営陣が
2ヶ月もの間、事実を伏せ、目先の利益を優先させた事はある意味賭け
だったのかもしれない。しかし、結果として、賭けをする場所と賭けを
しない場所との経営判断を誤ったことが今回の事件につながったのでは
ないだろうか。
                               (地域経済研究所助教授 岩瀬泰弘)


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