======地域経済研究所 eメールマガジン===========

 VOL.26 / 2 0 0 7. 5 .31(THU) 発行

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▽ 「地域経済への貢献」と「リレーションシップ・バンキング」


 金融改革プログラムでは、地域経済への貢献として「リレーションシッ
プ・バンキング」が挙げられている。「リレーションシップ・バンキング」
とは、地域金融機関が地元企業と親密な関係を長く維持することにより、
通常外部からは入手しにくい地元企業の信用情報を取得・蓄積し、融資等
に伴うコストを軽減するものである。これにより地元企業は自社の信用リ
スクに見合った適正な金利条件や手数料条件を享受することができる。
「リレーションシップ・バンキング」の本質は、地域金融機関が地元企業
と互いに情報を共有し合い、地元企業の抱える経営上の問題を解決するこ
とにある。換言すれば、双方向のコミュニケーションを前提とした問題解
決型のビジネスモデルの構築である。そのためには当事者双方の情報開示
によるリスクの共同管理とコストの共同負担が前提となる。地域金融機関、
地元企業のどちらか一方の情報が不足すれば「リレーションシップ・バン
キング」は有効には機能しない。
 一般に金融機関と企業との取引においては「情報の非対称性」が存在す
ることが知られている。「情報の非対称性」とは、金融機関と企業との保
有情報が対等ではなく、どちらか一方が情報優位者に、他方が情報劣位者
になる状況を言う。こうした状況を補完するには「エージェンシーコスト」
と呼ばれる費用が発生する。例えば、企業が新しい投資家の誕生に伴い新
しく資本を追加する場合、既存株主の株式の希薄化を防ぐため、発行時に
おける株式資本市場の状況やこれまでの実績記録を開示することが多い。
 この情報開示に伴う費用が「エージェンシーコスト」である。
「リレーションシップ・バンキング」は「エージェンシーコスト」の低減
を図るものであるが、大企業を中心にビジネスを展開する都銀にはあまり
効果は期待できない。しかしながら、地域金融機関と地元企業との間にお
いては極めて有効な方法である。その理由は、(1)地域金融機関の融資は地
元企業との長期的継続的なface to faceの関係に根ざしてその判断が行わ
れるケースが多い、(2)中小企業の場合、一般的に財務諸表等の定量的な指
標が乏しいため、融資にあたっては経営者の個人的資質やその企業の技術
力等の定性的な情報に頼ることが多い、等が挙げられる。
地域経済への貢献には、地域金融機関と地元企業とが今まで以上に情報の
共有化を図り、「リレーションシップ・バンキング」の機能を適正に働か
せることが近道ではないだろうか。

                (地域経済研究所准教授 岩瀬泰弘)



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