======地域経済研究所 eメールマガジン===========

 VOL.28 / 2 0 0 7. 7 .31(TUE) 発行

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▽   投資ファンドと司法の判断

  昨今、投資ファンドの動きが何かと話題になっているが、 7月に入って
注目すべき裁判所の判断が相次いで出されている。
その一つは、7月9日、米投資ファンドのスティール・パートナーズによる
ブルドックソースの買収防衛策導入差止めの仮処分申請に対する東京高等
裁判所の決定である。ブルドックソースによる買収防衛策(新株予約権を
買収者以外に与え、買収者の持ち株比率を下げることを骨子とするもの)
については、すでに 6月24日の同社株主総会において80%を超える圧倒的
多数で支持されていたが、法的有効性の判断は別であるとして、スティー
ル側が争っていたものである。まず東京地方裁判所においては、6月28日、
申立てが却下された。そして、今回、高裁においても地裁の決定が支持さ
れ、スティールの抗告は棄却された。さらに、高裁の決定はスティールに
関し「さまざまな策を弄して (中略) ひたすら自らの利益を追求しよう
とする存在」であるとして「濫用的買収者」と認定した。そして「濫用的
買収者は株主として差別的取扱いを受けることがあってもやむを得ない」
との注目すべき判断を示した。
  敵対的買収に対する新株予約権による対抗措置が例外的に認められる場
合に関しては、すでに平成17年 3月、ライブドアによるニッポン放送の新
株予約権発行の差し止め仮処分の決定において東京高裁が 4つの類型を示
している。そして、ここでは、いわゆる「グリーンメイラー」(株式を買
い集め、株価をつり上げてその会社・関係者に高値買取りを迫る買収者)
あるいは「焦土化経営」(会社経営を支配し、同社の会社の事業上必要な
知的財産、企業秘密、取引先などを移譲させる目的の買収)などの極めて
悪質な場合があげられていた。この点今回の決定ではこれを大きく拡げ、
投資ファンドの行動態様自体が「濫用的」であるという趣旨の判断が示さ
れた。投資ファンドの攻勢に危機感を募らせている経営者などにとっては
歓迎すべき内容であるが、一方、会社法の株主平等の原則などの点からは
疑問も残る決定である。このような状況では外資が日本から引き上げるの
ではないか、といった懸念も聞かれる。スティールは更に最高裁に判断を
求めており、結果が注目される。
 もう一つは、 7月19日、インサイダー取引の罪に問われていた村上ファ
ンドの前代表村上世彰被告に対する東京地方裁判所の判決である。判決は、
懲役2年の実刑、追徴金11億4900万円、罰金300万円、という厳しいもので
あった。この事件は、村上被告の率いるファンドによるニッポン放送株の
買付け、売却という一連の行為が違法なインサイダー取引となるのかにつ
いて裁判所の判断がなされたものである。インサイダー取引の要件は、証
券取引法(金融商品取引法)において「誰が、いつ、どのような情報に基
づいて」行ったものであるか、などに関し、非常に詳細・精緻な規定がな
されている。本件事態の詳細に立ち入ることは省略するが、最も重要な争
点は、村上ファンドがニッポン放送株の大量買付けを開始したのは、ライ
ブドア社がニッポン放送株の大量取得を「決定し、それを村上に伝達した」
後であったか、という点である。(法律上「決定」していなければインサ
イダー取引の対象とならない)。この点に関しては、村上被告は、決定し
たとは思っていない、と否定しており、また、堀江元ライブドア社長自身
も公判において「取得できたらいいな」といった願望の段階であった、と証
言している。これに対し、裁判所はメール等の証拠から既に決定していた
と判断し、さらに「決定」については「実現を意図して準備すればよく、
実現確実との見通しは不要」とも言っている。
 この判決では、村上ファンドについて「巨額の資金で自らインサイダー
状況を作り出し、豊富な資金で更に買い増しを続けるなど、一般投資家が
模倣できない特別な地位を利用した犯罪」で、「同ファンドの構造的欠陥
に由来し、偶発でなく必然」と体質自身に問題があると指摘、また「ファ
ンドなのだから、安ければ買うし、高ければ売る、という徹底した利益至
上主義には慄然とする」という様な評価をも示している。これらの内容は、
上記のスティール・パートナーズの件と同様、ファンドの構造態様・活動
そのものに大きな疑問を呈しているものである。こういった裁判所の投資
ファンドに対する認識が、村上被告によるインサイダー取引の判断に大き
く影響を与えたようにも思われる。村上被告側は即時に控訴しており、控
訴審の判断が注目される。

                   地域経済研究所長 中山 義壽
									  
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