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 VOL.30 / 2 0 0 7. 9 .28 (FRI) 発行

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▽政策評価と総合計画

  政策評価(または行政評価)がわが国に本格的に導入されてから、すでに
10年になる。全国初とされる三重県が事務事業評価システムを導入したのは、
1995年であった。そして現在、都道府県の96%、政令指定都市の100%、 中
核市の89%、特例市の90%と、ほとんどの都道府県および大・中規模都市が
政策評価を導入している。また市では48%、町村でも16%に達している(総
務省「地方公共団体における行政評価の取組状況調(平成18年10月1日時点)
」による)。政策評価は約10年という短い期間で、全国に波及したのである。
 同時に、導入から10年を経た現在、政策評価は大きな転機を迎えようとし
ている。すなわち、政策評価を自治体の総合計画(マスタープラン)とどの
ようにリンクさせるかが、あらためて問われているのである。総合計画は、
計画期間を10年間と設定しているものが多い。そのため、政策評価が導入さ
れてから、ほとんどの自治体が総合計画を改定することになる。政策評価が
普及した現在、総合計画の改定も政策評価とのリンクを前提としなければな
らない。しかし、総合計画だけでなく、政策評価も見直す必要があるのでは
ないか。
 政策評価の基本理念を大まかに言えば、顧客志向と成果志向、そして政策
の体系化である。総合計画は、体系化の点では政策評価と十分リンクしてい
る。だが顧客志向と成果志向では、総合計画に数値目標が組み込まれるよう
になった以外は、依然として政策評価とのリンクは不十分である。総合計画
は、政策評価とのリンクを強めることで、顧客志向と成果志向を取り入れた
内容に一新されることが期待される。
 しかしながら、両者のリンクは良いことばかりとは限らない。行政がもっ
ていた弊害を、さらに助長する危うい面も同時に持っている。それは縦割り
行政である。総合計画は「総合」の名とは裏腹に、総合的な視点から調整・
統合された一つの計画とはなっていない。むしろ、縦割りの組織が個別に計
画を作り、これを単純に積み上げることで、体裁のみ「総合」を保持してい
るものが多い。したがって総合計画は、その名とは逆に、実質は縦割り行政
を助長している側面がある。
 政策評価もまた、組織別の評価が基礎にある。事務事業評価はまさに組織
別の事務事業を単位とした評価であるし、政策・施策レベルといわれる広い
視点からの評価もまた、組織別の評価を並べて済まされるものが多い。この
ように政策評価にも、縦割り行政を助長する側面がある。
 そのため、両者のリンクは、縦割り行政を助長する危険性を孕む。しかし、
政策評価は本来、顧客志向を追求するものであるから、縦割りでは機能する
はずがない。顧客は、縦割りで評価をしないからだ。政策評価は早く導入さ
せることが優先されたため、理念が部分的に犠牲にされ、歪められたと考え
られる。この歪みを矯正することなしに、本当の意味で両者はリンクしえな
い。
 新しい総合計画を作るには、総合計画と政策評価とのリンクを強める見直
しが求められる。同時に、政策評価に対しても基本理念に忠実であるよう、
見直しの目を向けるべきである。

                                     (地域経済研究所助教 井上武史)
 




									  
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