========地域経済研究所 eメールマガジン=========

 VOL.33 / 2 0 0 7. 12 .27 (THU) 発行

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▽ 新年を迎え、凛として日本酒を嗜む

 新年に欠かすことができないものに日本酒がある。しかし、最近若者を
中心に日本酒離れが進んでいる。今や、ビール、焼酎、ワイン、発泡酒、
缶チューハイが全盛である。日本酒の生産量は30年間で約3分の1に減り、
地場の酒造メーカーはピーク時に約4000あったものが半分以下に激減して
いる。そんな中、コンビニと人材派遣会社という全くの異業種が、不況に
あえぐ日本酒業界を救うというテレビ番組を見た。内容は概ね以下のとお
りである。
 規制緩和で酒の販売経路が自由化され、主な販路は町の酒屋から量販店、
スーパー、コンビニに移り、なかでもコンビニは全体の1割を占めるまで
に成長した。しかし、コンビニに置いてある日本酒はカップ酒が中心で、
その購買層も50歳代から60歳代の男性に絞られている。そのため、若者が
中心のコンビニでは日本酒の販売量はわずか5%しかない。そこで、若者
にターゲットを絞った商品作りを目指し、コンビニと大手蔵元4社による
「日本酒共同開発プロジェクト」をスタートさせる。日本を代表する灘と
伏見の4つの蔵元が集まり、若者向けに“日本酒特有の酒臭さを無くし、
香りを重視した酒”を統一ブランドとしてコンビニを通じて販売する。イ
メージを一新するため、日本酒をコーヒー飲料のようなアルミ缶ボトルに
詰め、デザインもカラフルなものにし、4種類の日本酒ボトルには、それ
ぞれの味と香りの特徴が書かれている。
 日本酒は若い世代を中心に「酒臭い」「おやじ臭い」「二日酔いする」
といったイメージが定着し、それに比べると焼酎は「臭くない」「悪酔い
しない」といった爽やかさが好感を呼び、今や焼酎ブームになっている。
しかし、日本酒に悪いイメージが定着したのは、日本酒そのもののせいで
はなく、その飲み方の問題である。路上でカップ酒を飲む、吐く息が臭く
なるまで泥酔する、酒の力を借りて説教する、そんな姿を見て若者が敬遠
したのではないだろうか。
 酒は基本的に醸造酒と蒸留酒に分かれ、醸造酒は穀物や果実に含まれる
糖質やデンプン質を酵母で発酵させ、アルコールに変換する事によって作
られる。日本酒は醸造酒の代表で海外でも高く評価されている。一方、蒸
留酒は文字通り蒸留して造る酒で、蒸留の過程でアルコール度数が高まり
長期保存が可能になる。極端な言い方をすれば、日本酒を蒸留すれば焼酎
になる。つまり、日本酒と焼酎のルーツは同じである。米が収穫できない
地域では、やむを得ず主食の麦や芋を工夫し、苦労してできたのが焼酎で
ある。
 テレビ番組を見ていたのは秋真っ盛りの頃であった。日本酒で言えば「
秋晴れ」の季節である。冬から春にかけて仕込まれた新酒は、夏の間中、
ひんやりとした蔵の中で貯蔵・熟成される。それを秋口に、火入れせずに
出荷(生詰め)するものを「秋晴れ」と言う。「秋晴れ」は「あっぱれ」
とも読むが、これは当て字である。しかしながら、“感動するほど優れて
いる”、“見事である”、“賞賛に値する”と言う意味は同じである。
 福井県は米と水が極めて良質である。当然、日本酒のレベルも高く、そ
の飲み方には凛としたマナーが要求される。日本酒の復権は誇り高い福井
県が魁となって全国に伝えてほしい。今の若者に日本酒の本当の良さを知
ってもらうには、単に容器の外見を変えるといったことではなく、日本酒
を嗜む姿勢を伝承すべきである。姿勢に凛としたものがあれば、日本酒の
良さは自然と若者に伝わる。
 新年を迎え、凛として日本酒を嗜む。規制緩和の中、そこには日本酒復
権への道標が貯蔵されている。


                 (地域経済研究所准教授 岩瀬泰弘)


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