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 VOL.35 / 2 0 0 8. 2 .29 (FRI) 発行

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▽ 「道路と特定財源」

 道路特定財源の議論は、今や新聞でもニュースでも触れられない日は
ない。「ガソリン国会」と命名されるように、道路特定財源は政局を左
右する大問題になっている。原油価格の高騰も手伝って、自動車ユーザ
ーだけでなく、国民全体の関心も高い。
 議論の焦点は、道路の必要性や暫定税率の維持、一般財源化の展望な
ど、多岐にわたっている。場合によっては政権交代の可能性もあり、大
政党である自民党と民主党の主張は、対立点も明確で分かりやすい。
 道路特定財源について広く、深く議論が展開されている中で、今回あ
えてこの問題に触れるのは、議論の中に重要だが忘れられている視点が
あるのではないか、という思いがあるからだ。そこで、本コラムでは先
に挙げた議論の焦点には触れず、今後さらに加えるべき視点を取り上げ
たい。それは次の2点である。
 第1に、道路は自動車ユーザーだけのものではない、ということだ。
目下のところ議論されている道路特定財源の中心はガソリン税である。
ガソリンの消費に伴う課税だから、自動車で移動する者、すなわち自動
車ユーザーが実質的な納税者となる。タクシーやバスでも実質的な納税
者は乗客すなわちユーザーである。
 しかし、道路を使うのは自動車ユーザーだけではない。地下鉄やモノ
レールにも道路特定財源が使われている。これは自動車ユーザーのため
の道路ではなく、地下鉄やモノレールの専用「道路」という取扱がなさ
れているためであるという(神野直彦著「財政学」有斐閣より)。つまり
自動車ユーザーを完全に排除しても、道路といえるのである。また、道
路には歩行者や自転車もいれば、子供の遊ぶ空間やジョギングの場など
にもなる。歩行者天国や歩行者専用道路など、自動車以外の利用者に重
点を置いた道路も存在する。これらも、道路の持つ立派な機能である。
道路は、自動車ユーザーだけのものではない。
 道路特定財源は、自動車ユーザーの受益と負担の関係で成り立ってい
るという。しかし、この関係を過剰に重視すれば、道路は自動車ユーザ
ー以外を排除してしまわないか。自動車ユーザーだけに目を向けるので
はなく、道路の持つ多様な機能をもっと認識すべきだ。道路特定財源に
余剰が出たらその分だけ一般財源化するという議論があるが、むしろ一
般財源を積極的に道路整備に投じ、自動車ユーザー以外にも配慮した道
路を整備するという視点も必要ではないだろうか。
 第2に、暫定税率の意味を積極的に評価すべきである。真実かどうか
は別として、「財源があるから道路を整備するのは本末転倒だ」という
批判がある。しかし、特定財源には常にそうした弊害が生じる危険性を
はらんでいることは、真実である。暫定税率には、こうした弊害がない
か、税率見直しのたびにチェックできる機能も果たす。今回の議論も暫
定税率だからこそ「道路整備にムダがあるか」がチェックされるのであ
る。しかし、暫定税率は批判の対象にこそなれ、評価する意見はゼロに
等しい。
 もちろん見直しするための枠組みは暫定税率に限らない。道路整備計
画の見直しなども確かに有効だろう。しかし「財源があるから整備する」
という危険性は、財源がある限り続く。したがって税率の見直しこそ、
この問題に正面から挑む手段である。暫定税率に対して前向きな評価が
あってもいいのではないか。
 筆者は今のところ、道路特定財源の議論に関して、結論を用意してい
ない。それは、簡単に割り切れない問題が余りにも多いからだ。今回示
した視点を加えると、結論への途をさらに複雑にするかもしれない。し
かし、道路と特定財源をめぐる議論の中で、これらの視点を排除するこ
とはできない。どのような結論に至るにせよ、そこには良い面と悪い面
が必ず並存している。また排除された選択肢にも良い面がある。議論の
結果もさることながら、その過程にも目を向け、改善が続くことを望み
たい。

              (地域経済研究所 助教 井上 武史)



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