========地域経済研究所 eメールマガジン========= VOL.36/ 2 0 0 8. 3 .31 (TUR) 発行 ================================= ▽ 公会計と複式簿記 @よもやま話をしようと思う。昨年6月に地方財政健全化法(地方公共 団体の財政の健全化に関する法律)が成立し、地方公共団体の普通会計を 対象とした実質赤字比率、公営事業会計まで含めた連結実質赤字比率によ り、地方公共団体の状況を明らかにし、また実質公債費比率を示し、さら に将来負担比率により、公営企業・地方公社・第三セクター等をも含めた 実質的負債を把握しようとしている。 10月には総務省から地方公共団体に関する公会計の基準が提示された。 貸借対照表・行政コスト計算書・純資産変動計算書・資金収支計算書から なる財務諸表が義務づけられる。それぞれ、企業会計における貸借対照表 ・損益計算書・株主資本等変動計算書・キャッシュフロー計算書に相応す る。作成方法として、「基準モデル」と「総務省方式改訂モデル」の2つ が示され、特に前者は、複式簿記・発生主義を全面的に採り入れている。 A公会計基準の適用により財政状況・収支状況が開示され、どのサービ スにいくらの資金が投入されているかが明らかになれば、我々住民の行政 に対する意識も変わってくることが期待される。コストを下げながら、必 要性の無い事業を見直し、真に住民の要望の強いサービスを充実させるこ とに繋がるであろう。現在のところは、支払った税金がココに使われてい るという感覚は、我々にあまり無いのが実情かもしれない。 Bしかしながら、企業を対象とした会計基準をそのまま受け入れれば良 いというものではない。コンビニに行くと店員さんがこう言うであろう。 「ありがとうございました。またどうぞ」。病院で担当の人が言ったらど うだろう。産科医院で、乳児を抱きながら退院していく母親に、第2子、 第3子を願いながら言うのであれば、それは喜ばしいことである。「ポン ポンが痛〜い」とやって来た子供を前に、こういうことを言ったひには、 親から張り倒されるであろう。「お大事に」である。 C資本の自己増殖すなわち利潤追求を旨とする「企業会計」、ひいて 「企業」の目的・機能を無批判に受け入れるということでは勿論ないので ある。複式簿記に窺われる基本的な「大きな枠組み・物の考え方」に思い を致すということである。 組織体の活動を、資金の動きという観点から、有機的・統一的に把握し、 効率的・合理的・合目的的に運営するための汎用性のある優れた技法・容 器が複式簿記であり、逆に、複式簿記が組織体の目的・役割そのものまで をも規制してしまうわけではない。最近の風潮、いささか気になるところ ではある。組織体の目的、物事に対処する場合の心構えの問題を考えるに あたり、我々には良いお手本がある。お隣は近江の国の中村治兵衛宗岸が 書き残したもののなかに原典をみる、「三方よし―売り手によし・買い手 によし・世間によし」という精神、これである。 かのゲーテが、『ヴィルヘルム・マイステルの徒弟時代』の中で登場人 物に語らせた台詞を引用しておく。「ほんとの商人の精神ほど眼界の広い、 また広くなければならない精神が、外にどこにあると思う。………広く全 体を見通させてくれるんだ。………複式簿記というものがどんなに商人に 利益を与えるか知っているかい! これこそ人間精神のもっとも立派な発 明のひとつだ。」(小宮豊隆訳) (経済学部経営学科教授 田中 智之) このウィンドウを閉じる