========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.38/ 2 0 0 8. 5 .30 (FRI) 発行

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 ▽ 企業経営のトータルリスクマネジメント(Total Risk Management)


 リスクマネジメントは分かりづらいとの声が多い。それは、多くのリス
ク研究者が、災害リスク、法務リスク、人事リスク、風評リスク、事業投
資リスク、市場リスク、信用リスクなど、個別のリスクに限定し、そのマ
ネジメント(管理)を論じているからである。また、リスクマネジメント
は米国で誕生したものであるため英訳された用語が多く、その解釈がマチ
マチであることもリスクマネジメントを分かりづらいものにしている。
 リスクは「危険」という意味ではなく、将来起きるかもしれない「不確
実性」のことである。反対語にリターンという言葉があるが、これは「利
益」ではなく、「リスクを取った結果」を意味し、起きる結果にはプラス
のリターンもマイナスのリターンもある。ハイリスク・ハイリターンとは、
投資においてはプラスサイドのリターンを期待するため、「危険度が高け
れば利益も大きい」という意味に使われるが、危険度が高いのに利益が大
きい筈はない。ハイリスク・ハイリターンを正確に言えば、『不確実性が
高ければ、結果もプラスかマイナスのいずれかに大きくぶれる可能性が大
きい』という意味である。
 これを企業経営に置き換えると、企業経営の基本的リスクとは、自社の
将来の業績の「不確実性」であり、「不確実性」の結果には業績向上と業
績悪化がある。企業経営リスクマネジメントの主眼は、企業が業績悪化に
ならないようマネジメントを行なうことにある。

 企業の究極的目標が企業の存続であることは言うまでもない。換言すれ
ば、企業にとって最大のリスクとは企業が存続できなくなるリスク(倒産
など)である。企業が永続的発展を遂げるには「企業価値創造経営の実践」
が必要であり、それを支える「コーポレートガバナンス体制(経営者の監
視)」と「内部統制システム(企業内の統制)」の確立が求められる。そ
して、その背景には全役職員が共有できる「企業理念(企業の社会的存在
理由)」がなければならない。企業経営リスクマネジメントにおいては、
まずはこの基盤整備が出発点となる。これを『経営体制リスクマネジメン
ト』という。
 次に実行すべきは、業務執行上遭遇する個別の『執行リスクマネジメン
ト』である。『執行リスクマネジメント』が対象とするリスクには、事業
投資リスク、市場リスク、信用リスク、ハザードリスク、オペレーショナ
ルリスク等がある。

 つまり、企業経営リスクマネジメントの本質は、『経営体制リスク』と
『執行リスク』を“トータル”でマネジメントすることにある。ここでい
う“トータル”とは、企業の経営体制そのものもリスクマネジメントの対
象であるということを意味している。企業は『経営体制リスク』と『執行
リスク』を“トータル”でマネジメントできてはじめて、ビジネスモデル
の確立、成長戦略、マーケティングなどが可能になる。

                                (地域経済研究所准教授 岩瀬泰弘)





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