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     VOL.39/ 2 0 0 8. 6 .30 (MON) 発行

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 ▽ベトナムの経済不安と中国経済の黄信号

 四川大地震による経済混乱が終息しつつある中で、中国経済には新たな
懸念要因が高まってきた。それはベトナム経済不安の中国経済への影響で
ある。従来、輸出と内需という二本柱に支えられてきた中国経済が強い勢
いで成長してきた。しかも、内需が着実に拡大しつつあるので、サブプラ
イムローンに端を発した先進国の景気減速や食料・資源価格の高騰などに
よる世界的な経済混乱の影響が限定的なものだと認識されている。しかし、
最近ベトナムで起きた経済変調が中国経済にとって新たな不安要因として
懸念されるようになった。
 東アジアの第二の輸出加工基地として急成長してきたベトナムでは財政
と経常収支の「双子赤字」の累積や経済成長の拡大政策により、経済成長
の基盤が弱まってきた。今年に入ってから、経済変調が目立つようになっ
た。今年の 5月には消費者物価指数が25%上昇、株価が70%下落、ベトナ
ム通貨が昨年10月の1ドル=16,000ドゥンから今年 6月の 1ドル=16,330
ドゥンまで下落、今年の第一四半期の経済成長率が昨年同期比 0.4ポイン
ト低減の7.4%に低下など、経済混乱が拡大しつつある。こうした中で国際
短期資本の引き上げが加速し、実体経済への悪影響が現れてきた。最近の
中国ではこういう経済混乱がさらに中国に広がるのではないかとの懸念が
強まってきた。
 周知の通り、中国では2000年以降の急成長により、株価や不動産価格の
高騰に象徴されたバブル経済が膨らんできており、経済成長の不安要因と
もなっている。しかも、昨年の 8月から現在までに、世界的な株価下落に
つれられて、上海証券取引所の株価指数が最高値の6000元からすでに3000
元を割り込んだ。さらに今年に入ってから、深センをはじめとする広東省
の珠江デルタ地域では不動産価格の下落がすでに始まった。今回、ベトナ
ムで発生した経済混乱が飛び火となって、不動産価格の急落が全国に広が
るのではないかとの声も出てきた。
  中国の直接金融がまだ発達していないことから考えれば、株価の下落が
実体経済への影響が小さいと考えられる。しかし、不動産価格の急激な下
落は中国経済に対する影響が大である。というのは住宅建設投資が固定資
産投資の15%を占め、中国の経済成長を牽引する柱となっているが、不動
産価格の暴落により、住宅の建設が減少するだけでなく、不動産業者の経
営破綻、住宅建設の冷え込み、建設業雇用者数の減少、銀行不良債権の増
加、資産価値の減少などを通じて、実体経済にマイナス影響を及ぼす可能
性がないわけではない。しかも、失業者の拡大が社会的混乱と不安を引き
起こす可能性もありうる。さらにインフレ抑制に取り込んでいる中国政府
にとって、いかに物価の安定と経済成長の両立を保つのかという政策の舵
取りも難しくなってくるのではないかということにもなる。


                    (経済学部経済学科教授 唱 新)

※深セン セン=「土」ヘンに「川」


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