========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.41/ 2 0 0 8.8 .29 (FRI) 発行

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 ▽地方分権改革を進めるために、今こそ住民自治を

 地方分権改革の推進が再び本格化している。地方分権改革推進委員会が
昨年 4月に設置され、国から地方への権限委譲が議論されはじめた。委員
会は今年 5月に第 1次勧告「生活者の視点に立つ『地方政府の確立』」を
提出し、「くらしづくり分野」「まちづくり分野」での見直し事項などを
示した。また 8月には「国の出先機関の見直しに関する中間報告」も提出
した。国と地方の二重行政が生じている分野で国の出先機関の廃止を検討
し、年末の第2次勧告に具体案として示す旨を明らかにしている。
 今回の改革は、1995年に設置された地方分権推進委員会による改革に続
くものであり、第二次分権改革の流れに位置づけられる。地方分権推進委
員会の勧告によって機関委任事務が廃止され、地方の条例制定範囲が拡大
した。今回の改革は、この第一次分権改革をベースキャンプとして、さら
に地方の権限強化を狙ったものである。
 しかしながら、地方は強化された権限を十分に活用していない。地方分
権推進委員会委員であった西尾勝氏は、第一次分権改革後も従来と変わら
ぬ行動にとどまる自治体を「居眠り自治体」と呼び、地域住民に改革の成
果が認知されない状況があると指摘している。制度だけを変えても、有効
に使えなければ宝の持ち腐れである。
 このような状況になる大きな原因は、住民自治が置き去りにされている
ことにある。地方分権すなわち地方自治は、団体自治と住民自治で構成さ
れる。権限委譲は団体自治の側面、すなわち地方が国の統制を受けず自律
的な運営を実現するための方策であり、機関委任事務の廃止は団体自治を
大幅に強化した。しかし住民自治の側面、すなわち地方における意思決定
を地域住民が主体となって行うことについては、今後の課題として認識さ
れるのみで際立った改革はなかった。地方自治体は、たとえ国からの自律
性を高めたとしても、 自らの運営指針が住民から与えられない状況では、
やはり国に指針を求めざるを得ない。住民自治なしには、団体自治も成り
立たないのである。
 今回の分権改革もまた、同じ状況にさらされている。特に今回は国の出
先機関の廃止など組織の維持に係る重大な課題であるため、省庁の抵抗は
以前よりも強くなるだろう。改革を後押しするのは地方の強力な意思であ
るが、現状のままでは大きな成果を得ることは難しい。
 そこで、住民自治を強化することが緊急課題である。そのためには、主
に2つの方策が挙げられる。
 1つは議会改革、 すなわち議会の権能強化と多様な住民層による構成が
求められる。多様な価値観を持つ住民が自ら意思決定するためには議会制
民主主義だけが手段となるわけではないけれども、議会は率先して住民自
治の重要な部分を担う責務がある。
 2つ目の方策は、 柔軟な税負担の導入である。意思決定は自らの負担な
しに真剣に考えることはできない。 現状は国も地方も財政状況が厳しく、
優先されているのは歳出削減である。しかし削減だけで財政健全化は困難
であり、いずれ歳入増加を図る時期が訪れる。国では消費税増税の検討が
進められるだろうが、地方も税源委譲に頼るだけでなく地方税の増税も視
野に入れるべきである。それは財政健全化を図るとともに、地方自治を推
進するためにも必要である。
 予算とは本来、受益と負担の関係を決めるもので、負担を固定する必要
はない。住民の意思を反映する機関としての議会が、負担も含めて財政規
模を決定すれば、地方自治は飛躍的に進むはずである。
 もちろんこれらの改革にもさまざまな抵抗があるだろう。だが、地方分
権を推進するためには、いつまでも放置することはできない。住民自治に
関しても、第一次改革に入る時期である。


                (地域経済研究所助教 井上 武史)



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