========地域経済研究所 eメールマガジン========= VOL.42/ 2 0 0 8.9 .30 (TUE) 発行 ================================= ▽協同組合の「思想的な危機」 近年、協同組合の存在感が薄れているように思えてならない。同じ非営 利組織であるNPOには光が当たっていることと対照的である。 そもそも協同組合は、官(行政)、民(民間企業)に次ぐ「第三セクタ ー」として重要な位置を占めるはずである。その協同組合が、なぜ位置づ けの低下に陥ってしまったのであろうか。 大きな理由の一つに、協同組合に対する厳しい外圧の存在がある。農協 を例にとると、周知のように日本の農協は総合農協、つまり複数の事業を 兼営しているところに特徴がある。また、農家以外の組合員を准組合員と して認めている(ただし、議決権は与えられていない)のも、世界的には 類まれな制度である。 こうしたわが国の総合農協に対して、解体せよという主張がある。具体 的には信用・共済事業を切り離して民間企業に開放し、農協は農産物の販 売や生産資材の購買に特化せよというのである。しかもその際、全農家を 網羅的に組織して運営するのではなく、一部のプロ農家(少数精鋭の専業 農業者)のみを組織した専門農協に移行せよという主張である。また、い わゆる「1人1票主義」など、協同組合が大切にしている意思決定の方法 にも、効率性が悪いという理由で批判が浴びせられている。要するに、協 同組合の特性そのものが否定されているのである。実は、こうした主張は、 小泉内閣以来進められている、構造改革路線の延長線上にあり、一部の限 られた農業者のみを「担い手」として認め、そこに施策を集中投下しよう とする新しい担い手政策ともリンクしている。 さて、こうした協同組合 ・ 総合農協の解体論に対して協同組合陣営は、 正面から理論武装をし、実践を通して反論していかなければならないはず である。しかしながら、協同組合内部にも問題は山積している。 農協では、近年、さまざまな改革の名の下に、人員の合理化や支所の統 廃合などに取り組んできた。ところが、改革の成果はある程度あげつつも、 組合員との距離がますます離れつつある。経営組織の縦割り化、職員の過 度な専門化は著しい。日本農業の重要なトレンドとして地産地消や食農教 育など、地域や組合員、一般消費者への対応が重要になっているこの時代 に、農協と組合員・地域との距離は遠くなる一方である。 生協も同様である。中国製の冷凍餃子事件は記憶に新しいが、激化する 低価格競争の土俵に乗り、一般企業が供給するものと変わらない「商品」 を、協同組合の基本である「学習活動」なしに推進していた点は、大いに 反省すべきであろう。 今から30年近く前、当時のICA(国際協同組合同盟)の会長であった A・Fレイドロー氏は、その著書『西暦2000年における協同組合』のなか で、世界的にみた当時の協同組合の状況が「思想的な危機」に陥っている として警鐘を鳴らした。つまり、協同組合の真の目的は何か、株式会社に はない協同組合の特性(強み)とは何か、といった点について関係者が真 剣に考えていないと嘆いたのである。30年近くたった今もなお、この状態 は続いているのではないか。 協同組合が大切にすべき理念は何か、協同組合らしい運営、協同組合ら しい事業とはどういうものか。今こそ関係者は、真摯に自問自答すべきで あろう。 *参考文献 ・増田佳昭『規制改革時代のJA戦略―JA批判を越えて』家の光協会 (2006年) ・拙著『新時代の地域協同組合』家の光協会(2008年) (経済学部経済学科教授 北川 太一) このウィンドウを閉じる