========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.46/ 2 0 0 9.1 .30 (FRI) 発行

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 ▽土蔵の活用とまちづくり


 全国で地域活性化のために「蔵」の再生や活用の動きが活発である。長
浜や豊後高田、長野などの地域活性化事業では蔵の活用が有名である。敦
賀市でも中心市街地活性化の事業計画の一つとして歴史のある「敦賀酒造」
の酒蔵を改修し、その活用によるまちづくりを考えている。越前市の「蔵
の辻」として知られている武生駅近くの中心商店街にあるパティオ風の空
間は空き蔵の活用である。その他にも全国で、蔵を地域資源活用としてま
ちづくりに生かしている例は枚挙にいとまがない。しかし、活性化の手段
としての改造・改修資金確保にはどこも苦労している。中心市街地活性化
の国の支援を受けての活性化や自治体の支援が受けられたところでさえも
厳しい。地元の有志の努力だけではなかなか続かず、資金確保に苦慮して
いる。例えば、地域からの寄付やコミュニティファンドの創設などの例も
見られるが成功例は少ない。
  そのような中で、隣県の石川県で、一石三鳥ともいえるユニークな事業
展開している例がある。国交省が「新たな公によるコミュニティ創出モデ
ル事業」として認定し、注目している事業である。この事業は、一昨年 3
月の能登半島地震により輪島市だけで約 600棟の土蔵が取り壊されたこと
が契機だった。歴史のある地域資源である「蔵」がなくなっていくのに危機
感をもった人たちが石川県輪島市で NPO法人「輪島土蔵文化研究会」を立ち
上げた。土蔵の修復のために一口 3万円の支援金を募り、土蔵の修復に当
てる取り組みである。ユニークなのは、修復した土蔵で作った輪島塗や地
酒、 3万円相当をプレゼントするものである。土蔵所有者にとっては改修
資金が得られ、その土蔵で地酒や輪島塗などの製品ができ、支援者という
新たな顧客を持つことになる。
  この活動は、能登半島地震がきっかけでの土蔵の修復によるまちづくり
ではあるが、全国で土蔵や古民家などの地域資源が消えていく例は多い。
維持したくとも個人の力には限界があり、行政の支援にすべて頼るという
わけにはいかない。輪島市の NPO活動は、目的を明確にして、善意の志を
地域に貢献する具体的な仕組みとして注目すべき事業である。
 福井県はふるさと納税を提唱した。この制度も希望する自治体に寄付す
ることで善意を地域貢献に向ける仕組みである。善意に報いることの具体
例として税額控除できることも一つの仕組みといえよう。
  地域づくり、地域活性化については様々な活動が見られるが、推進する
ための課題は資金だけではない。資金を確保し、資源を活用する仕組みが
必要である。多くの活性化が期待される地域には、蔵だけではなくとも活
用できる地域資源がある。住民にとってあまりに日常的で気づかないだけ
かもしれない。ただそれだけでは活動としては弱い。仕組み作りの前提は、
まずは地域住民の地域に対する熱き志がなければならない。次に、活動を
具体的に推進するリーダーが必要である。もしいなければ育成するなり、
招聘するといったことも必要になってこよう。それらが備われば英知を結
集して、活動を推進する資金確保などの仕組みをつくり出すことができる。
輪島市の例はそのことを教えてくれる。
 まちづくり、地域づくりについては今後、様々な新たな手法を開発した
地域が出てくることを期待したい。活動の広がりが、その地域を震源とし
て広く伝播することが、地域内外の数多くの人の善意に報いることになろ
う。輪島市の例が、各地で苦労している活動が持続できるヒントとならな
いだろうか。

                    (地域経済研究所 小川雅人)









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