========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.47/ 2 0 0 9.2 .27 (FRI) 発行

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 ▽世界同時不況から地方分権の基本的方向性を考える


 米国発の金融危機を発端とした世界同時不況から、市場に対する見方、
そして資本主義に対する考え方が、大きな転機を迎えている。これまでは
「市場原理主義」すなわち市場に対する強い信頼を基礎に、規制緩和やグ
ローバル化、そして小さな政府が志向されてきた。しかしサブプライムロ
ーン問題など市場の暴走が経済の混乱をもたらしたとみなされ、アメリカ
では主要銀行に対する公的資金の注入や巨額の財政出動が行われ、日本で
も補正予算の成立が急がれている。小さな政府から大きな政府への転換が
進行しているのである。
 このような中で、地方分権の位置づけはどう変わるであろうか。地方分
権には 2つの側面があり、市場を重視する立場と市場に懐疑的な立場のい
ずれからも地方分権の必要性が主張されている。したがって、市場に対す
る見方が変わっても基本的に地方分権の必要性は失われないだろう。
 しかし、それぞれの立場から捉えた地方分権の姿は大きく異なる。例え
ば、市場重視の考え方から市町村合併や道州制が主張されている。そこに
は地方分権時代における税源移譲や権限委譲の受け皿として、自治体の体
力を強化しようという意図が含まれる。地域性に根ざしながらも「最小の
経費で最大のサービス供給」すなわち効率性を追求するための行政単位と
して、市町村合併や道州制が議論されているのである。
 一方、市場に懐疑的な見方からは、地域の共同体機能が重視されている。
家族は共同体の最小単位と言えるが、これは日常的な相互扶助であり「貨
幣を通じた契約関係を基礎とした市場」の外側で行われている。福祉や教
育などの分野では、きめ細やかなサービスを提供するために共同体の役割
が評価されており、地方分権は市場で捉えられない分野をカバーするため
に必要と考えられている。
 世界経済の潮流は市場重視から市場懐疑へと明らかに転換しつつあり、
巨額な財政出動など経済政策の変化として、すでに表面化している。だが
地方分権はどちらの立場からも必要と考えられているから、変化が見えに
くくなる。今後の地方分権改革は一方の立場が大きく衰退することなく、
両者の立場を織り交ぜたものとして、よく言えば良い所どりとなるだろう
し、悪く言えば妥協案となるであろう。
 市場重視の考え方では、共同体機能にも市場メカニズムを可能な限り導
入することを主張してきた。また市場に懐疑的な見方からは、道州制を効
率性一辺倒だと否定してきた。このように相互の立場を否定してしまうと
肝心の地方分権が進まなくなるし、妥協案となれば成果があがらない。転
換期においてもブレることなく地方分権改革を進めていくためには、両者
の立場を慎重に吟味して相互の良い所を巧みに取り込む必要がある。
 この意味で、地方分権改革の方向性は大げさに言えば資本主義の方向性
を決定づけるだろう。経済は両者の立場が入れ替わる歴史を辿ってきてお
り、まさに現在は転換期を迎えているが、地方分権はその歴史の中で着実
に進展しており、両者の関係が問われるからである。


                (地域経済研究所助教 井上 武史)










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