========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.48/ 2 0 0 9.3 .31 (TUE) 発行

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 ▽地域公共交通から地方分権を考える


 平成18年10月に施行された道路運送法が改正され、地域公共交通会議の
制度が導入された。同法では、地域のニーズに応じた多様な形態の運送サ
ービスの普及を促進し、旅客の利便を向上させるため、地域の実情に応じ
たバス運行の態様及び運賃・料金、事業計画等について、地方自治体が主
宰者となり、地域の関係者による合意形成を図る場として地域公共交通会
議を位置づけている。この場で地域の合意が形成されれば、路線の新設・
変更、停留所の設置や運賃設定等の手続きがスムーズに実行されることに
なった。
 県内でもほぼすべての市町で地域公共交通会議が設置され、私もその中
のいくつかの会議に委員として参加させていただいている。地域住民が地
域公共交通のあり方を自らの問題として考え、自分たちの手で問題解決策
を探り決定する場ができたことは意義があるだろう。地域公共交通会議の
設置は、制約があるとはいえ地方に主体的な意思決定の権限を与えたとい
う意味で、地方分権の流れを先取りした施策であると考えられる。
 ただ問題は、各自治体が地方分権の受け皿として十分に機能しうるかと
いうことである。いくつかの地域公共交通会議に参加していて感じること
は、自主的、主体的に公共交通政策を策定することができ、またそれを実
行できる自治体はごく一部に限られているということである。ほとんどの
自治体は、まだそれだけの能力や余裕がないというのが実情であり、国や
県にかなり依存しなければならないのが現状である。これは行政の能力不
足という問題だけではなく、地域住民、交通事業者等を含めた地域全体の
問題だといえる。また、交通政策の分野に関して言えば、まだ慣れていな
いという問題もあるかもしれない。法改正されたばかりで手続きの正当性
やあり方に関する議論に終始してしまい、自分たちの地域の公共交通はど
うあるべきかという本来最も大切な問題が十分議論されないというケース
も見られることが、このことを示している。
 地方分権の必要性は叫ばれているが、交通分野に限らず、地方自治体が
地方分権の受け皿として対応しうるだけの十分な能力を備えているといえ
るのか甚だ疑問である。特に、地域の合意と責任が求められることになれ
ば、従来型のトップダウン方式による行政主導型手法から地域住民の参加
・参画が必要不可欠であり、自治体職員だけでなく、地域住民等を含めた
キャパシティ・ビルディング(能力の構築)を図ることが求められている
のではないだろうか。その意味で、大学の果たすべき役割はきわめて大き
いといえるだろう。


           (福井県立大学経済学部 准教授 淺沼 美忠)










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