========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.49/ 2 0 0 9.4 .30 (THU) 発行

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 ▽政策形成をめぐる流れと地域住民の役割


 政策形成や政策選択の手法は、三重県における事務事業評価システムの
取り組み以来、「評価」を軸として発達と変化を続けている。言い換えれ
ば試行錯誤であり、日本の行政システムに合致するよう改善されると同時
に、当初の理念が歪められる過程でもあった。
 とりわけ進行しているのが、個々の政策を評価し政策形成に活用する手
法から、ある分野に属する政策をまとめて評価する手法への転換である。
例えば個々の政策とは「ごみ分別啓発事業」や「学校備品購入費」などで
あるが、政策の単位が細かいために有効かどうかの判断が難しい。また事
業の数は市町村でも数百に上るため、非常に手間がかかる。つまり労力の
割に実効性が低いのである。
 そこで、ある分野に属する政策をまとめて評価する手法が重視されるよ
うになった。先の例では、ごみ分別啓発事業は「リサイクルの推進」に属
する事業の1つとされ、同じ目的を持った複数の事業が集約される。そし
て大括りされた「リサイクルの推進」がどこまで進んだか分析した上で、
これに属する複数の事業がどの程度寄与しているのかを判断し、効果の高
い事業が選択されるのである。
 また、このような変化に伴い、評価の目的も予算編成への活用から地域
住民への説明責任を果たす材料として活用されるようになった。予算書は
個々の政策と財源が羅列されているだけで、何を訴えようとしているのか
明確でない。説明責任が重視される中、地域住民に対して簡潔明快に説明
するためには、大括りの評価が必要なのである。
 こうした動向は、有効な評価を行うために必要な流れと思われる。つま
り試行錯誤によって、評価手法が改善されている。しかし同時に、そのよ
うな動きになるほど評価が機能不全に陥っている。つまり評価は試行錯誤
の過程で、本来の有効性を喪失しつつある側面も持っているのである。
 なぜならば、行政は依然として縦割り機構で機能しているからである。
大きな括りで評価するためには大きな視野に立たなければならないが、そ
うなると首長や地域住民の役割が重要になる。しかし、いくら大括りでも
対象分野は多いから、それぞれの分野に首長が関与する十分な余裕はなく、
やはり自治体職員に負うところが大きい。また評価が地域住民への説明責
任を果たすといっても、それに対する地域住民の反応があまりにも少ない。
そのため評価が大括りになるほど難しくなっても、問題とは思われていな
いのである。
 では、今後の評価はどのような発展を遂げるべきなのか。何よりも、地
域住民が自らの評価視点を確立することであろう。地域住民が説明資料と
して示された評価に対して積極的に反応してこそ、評価が洗練されてくる。
いろいろな場面で「説明責任を果たしていない」と聞かれるようになった
が、それは大きな問題が起きたときだけでなく、日常の行政サービスにこ
そ反応すべきではないだろうか。


                  (地域経済研究所 井上 武史)










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