========地域経済研究所 eメールマガジン========
VOL.5/2005.8.29(MON)発行
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▽特集2 中国の現場(2)  前回(地域経済研究所e-メールマガジンVOL.4(平成17年7月26日 発行))に引き続き、中国事情視察(6月末)の際に訪問した企業 の中から、今回は、中国系企業(上海)と台湾系企業(杭州)2社 の概要や取り組み、戦略等を紹介する。 ■上海奥偉集団有限公司  〜生産性・技術力・品質向上を目指す中国系企業〜  『上海奥偉集団有限公司』は、上海浦東(上海国際)空港から23k m、車で30分ほどの所にあり、総経理(社長)以下従業員すべてが 中国人、100%中国民間資本の中小金属製品プレス加工メーカーで ある。当社が立地する地域周辺は、上海市内とはいえ、超高層ビル が建ち並び、中国における流行発信基地ともいえる華やかなで煌び やかな上海市街地とは対照的に、景色は黄砂の影響でかすれ砂埃が 舞い、道路は依然未整備で轍が目立つ。路肩では野菜や果物を売る 人々、移動や運搬の手段は、主に徒歩や自転車、リヤカーと庶民の 匂いを感じさせる。また、幹線道路沿いには木工製品を製造する個 人事業主の作業場が建ち並び、加工段階のテーブルや椅子などが無 数に積み上げられ、中国の田舎町そのものといった感がある。  こうした地域に立地する当社は異質にも感じられ、主要設備は、ア マダのプレスパンチやタレパンなど、32種類、計66台の装置を保有 し、金型加工も自社で行えるほどである。取引先には、「リンナイ」 や「ダイキン」、他にも米、住宅設備機器、発電機・小型エンジン メーカー「コーラー」など、中国国内に留まらず、グローバルな事 業展開を行っているものの、日本の同規模同業他社と比較すれば、 従業員や設備の配置など製造段階における細やかなコスト管理や安 全管理は行き届いておらず、改善の余地は至るところにみられた。  しかしながら、今後一層、日本企業のみならず世界各国の企業との 取引を拡大するためにも、更なる生産性向上、技術力向上、品質向 上が喫緊の課題と自覚しており、日本の先進的企業を視察するなど、 積極的に技術や品質管理を学び取ろうとしている。こうした姿勢や 意識は、我々も大いに見習うべきことであり、チャイニーズドリー ムを目指す経営陣の輝いた眼がいまだ鮮明に蘇ってくる。 ※当社HP:http://www.shallwell.com ■杭州頂益国際食品有限公司(康師傅)  〜中国で成功する台湾系食品メーカー〜  上海から高速道路を南西へ2時間ほど車を走らせた所にある杭州経 済技術開発区に、即席麺や清涼飲料水、スナック菓子などを生産し、 即席袋麺においては2,500万袋/日(グループ全体)の生産を誇る 台湾系食品メーカー『頂益国際集団(TING HSIN INTERNATIONAL GROUP)』のひとつ『杭州頂益国際食品有限公司』が事務所及び工 場を構えている。現在、ここでは、月3億食もの即席カップ麺の生 産を行い、世界ナンバーワンの生産量を誇るほどである。1999年に はサンヨー食品がグループ株式の33%を取得し資本参加、最近では、 カゴメ・伊藤忠商事と野菜・野菜果実飲料や乳酸菌飲料を「可果美 (カゴメ)」ブランドで生産及び販売を行う合弁会社の設立に合意 し、合弁契約を締結している。また、亀田製菓とも合弁で中国市場 向けの米菓を生産する拠点を天津に設立することに合意するなど、 グループとして日本企業とのつながりを強めている。  今では、「康師傅(カンシーフ)」の名で中国全土に知れ渡ってい るが、設立当初は、台湾で製油業を営む家族経営の零細企業であっ た。天安門事件が起こった89年、中国大陸に進出、92年から袋タイ プの即席麺の販売を開始し、それが好評を博した。即席麺という手 軽さと低価格が功を奏し、いまや、女子大生やOLなどの朝食とし て、若年世代の食習慣に定着しているほどである。また、日本で生 活する中国人の中には、「康師傅はふるさとの味」と言い切る者ま でいる。  ではなぜ、広大な中国全土に名を馳せるまでに至ったかであるが、 そのポイントをいくつか挙げると、まず1つ目は、「康師傅」とい うネーミングとそのキャラクターにある。「康」は「カン」という 人名、「師傅」は「親方」、つまり、「カン親方」という意味であ り、愛嬌のあるキャラクターを作り上げ、消費者に親しみを持たせ るブランド戦略を展開した。また、他にも積極的に有名芸能人をイ メージキャラクターとして採用するなど、女子大生を中心に若年世 代をターゲットにした販売戦略を推進することで、ブランド力、知 名度を高めたのである。とはいうものの、単に人を引き付けるネー ミングやキャラクター戦略のみで成功した訳ではない。  2つ目として挙げると、「味」の差別化を図ったことである。中国 という単一国家とはいえ、EUと同等規模程度の国土面積を誇り、 食に関しては北京料理や上海料理、四川料理、広州料理、その他民 族独自の料理など多種多様に存在する。つまり、地域ごとに人々の 味覚も異なり、その地域の人々が好む味を作り上げ、ご当地的な製 品の製造・販売を行った。こうした消費者の「舌」に訴えかける販 売戦略が実を結び、ナンバーワン企業の座を勝ち取ったのである。 他にも成功のポイントは、即席麺を初めて中国に普及させた企業と いう先進性や、1ヵ月半から2ヶ月周期の新商品投入、積極的な外資 系企業との提携、自社独自の製品流通基盤の整備・構築、レストラ ン(アンテナショップ)経営など多々見受けられる。  当社は、「困難を極める中国ビジネス」といわれるなか、消費者心 理をくすぐり支持されたならば、チャイニーズドリームを勝ち取る ことが可能であることを証明し、顧客優先経営が国境を越えた経営 戦略手法のひとつであることを教えてくれた。 当社HP:http://www.tinghsin.com.cn  次回(9月号)は、海外企業を積極的に誘致する「杭州経済技術開 発区管委会(管理委員会)」と、中国における東芝PC製造拠点 「東芝信息机器(杭州)有限公司」を紹介します。                  (地域経済研究所 杉山友城)          このウィンドウを閉じる