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     VOL.62/ 2 0 1 0.5 .31 (MON) 発行

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 ▽観光業が本県経済に占める地位

 本学地域経済研究所では、昨年度の研究事業として、既存の観光統計デ
ータをもとに産業連関表を用いて経済波及効果を分析し、観光産業の市場
規模と福井県経済への寄与度について考察した。
 その結果によれば、観光客の福井県経済にもたらす経済波及効果(平成
20年)は、総額で生産誘発額が1,112億円、そのうち付加価値誘発額が543
億円、雇用者所得誘発額が 274億円で、それらがもたらす雇用効果が約12
千人、また、本県経済への寄与度も生産波及効果で 1.7%、付加価値効果
で1.6%、雇用効果で2.8%となり、観光が本県経済にとって大きな位置を
占めていることがわかった(参考資料:福井県立大学地域経済研究所 研
究プロジェクトチーム『福井県の休眠および未利用観光資源の積極活用に
よる経済的効果に関する予備的研究』2010.3)。
 特に、今回の調査で注目すべきことは、経済波及効果全体を業種別に見
た場合、旅館・その他の宿泊所が453億円と全体の約4割(40.7%)を占め
ることは当然ながら、それ以外に商業、飲食店、食料品、金融・保険業な
ど 、5億円以上の経済波及効果があると推計された業種が27業種にのぼり、
観光の他産業への波及が幅広い業種に及んでいることが明白となったこと
である。
 この結果から言えることは、第 1に、一見、観光と関わりのない産業・
企業にとっても、間接的に観光と何らかの係わりを持っているケースが多
いということであろう。確かに、直接効果に関しては旅館・その他の宿泊
所など観光客と直に接する業種が大きいものの、間接効果については地域
のあらゆる業種に波及が広がっている。厳しさが続く経済情勢の中、各産
業・企業は、最終製品やサービスの行き先が、観光客であるケースをイメ
ージし、観光を切り口にした事業の創造や、観光客と直に接する旅館や飲
食店などと積極的に連携を図り、需要拡大につなげることも必要ではなか
ろうか。
 第 2に、観光振興を図る上で、産業・企業が重要な役割を持つ主体の一
つであることを指摘したい。近年、大都市部を中心とした発地側の旅行会
社等にて企画される発地型観光に対し、着地側にてそれを行う着地型観光
が注目されている。この着地型観光には発地側でつくりにくい体験・学習
・交流型のメニューや、地域住民等の参加が特徴である。伝統産業や地場
産業が直接的あるいは間接的に関与することで、地域ならではの着地型観
光を推進することが可能ではなかろうか。
 また、県外との取引の多い産業・企業は、相手先から見ると地域の顔と
なっているケースも少なくない。まして商談や取引の場が地場であれば、
応対する社員は地域のPR大使ともなりうるのであり、そのもてなしは観
光振興にとって非常に重要であるとともに、当該企業の利益につながるも
のであろう。
 以上を踏まえ第 3に、産業・企業における観光を切り口にした連携事業
の採用を提言したい。観光客と直に接する旅館や飲食店、小売店などと積
極的に連携し、需要の創造・拡大や異業種との交流・連携による相乗効果
を図るとともに、消費者ニーズの把握、新商品の開発、企業イメージの向
上などにつなげていくことも肝要ではなかろうか。
                (地域経済研究所 教授 南保 勝)





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