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     VOL.63/ 2 0 1 0.6 .30 (WED) 発行

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 ▽「まちづくり」と「地域活性化」の意味の整理

「まちづくり」とは何かということについて様々な議論がある。山崎 (20
 00)によれば、「街づくり」という表現は 1962 年から始まった名古屋市の
「栄東地区都市再開発運動 」 ではじめて使われたという(※1)。 その
後、まちづくりについて 「街づくり」「町づくり」「まちづくり」 など
と読み方の同じ表現が使われてきた。石原の主張 (※2 )のようにまち
づくりの表現の違いを厳密に区別すること自体が重要ではないという主張
もあるが、比較的多くみられるまちづくりの定義は、田村( 1987) の定義
であろう。田村は「まちづくりとは、一定の地域に住む人々が、自分たちの
生活を支え、便利により人間らしく生活していくための共同の場を如何に
つくるかということである。」 (※3)と定義している。その他に特徴的
な視点からの定義として、 商業論では「個店経営ならびに 商店街経営を
より有効ならしめる意味での社会経済的環境の形成」(※4)いう定義が
ある。 また社会学からの視点もある。都市有機体論の立場に立ち「 まち
づくりとはまちを一つの有機体と見なす立場に立ち、当該のまちに関わる
人々が、自分自身をそのまちの構成要素の一つなのだという認識を携えつ
つ、その有機体としてのまちをより健全なるものとすべく、様々な働きか
けを多面的、継続的にしていくことを意味する。 」(※5) と定義して
いる。このほかに都市計画の視点、経済地理学的な視点もあるが、議論は
この辺でとどめておく。大事なことは「まちづくり」を理論的に厳密な定
義をすることではなく、まちづくりを実現するためにどう捉えるかである。
  まちづくりの主張の中でも石原 (2000)は、「まちづくり」、「街づく
り」を厳密に区別する意味はあまりないとして、『ここ(本書)  で考える
まちづくりは「ソフトの側からのハードをデザインする」といったイメー
ジが強く 、 しかもその実行体制の問題にかなりのウエイトを置きたいと
考えている』 (※6)としている。 筆者も同様な主張に立つ。本稿では、
まちづくりは 「 地域に住み続けるための生活しやすい、住民を中心とし
た自律的で持続可能な地域社会を作ること 」 であるという立場をとる。
特に意識しているのは、 特定の地域、 たとえば駅前の中心街などを限定
的に捉えるのではなく、まして都市計画的な整然とした街区整備だけを意
味しない。  結果として賑わいの場となることはあってもその賑わいを作
ることが 目的ではない。
  次に明確にしなければならないのは「地域活性化」である。これは「国
土政策に基づく大規模でトップダウンの地域開発、他方で一村一品運動に
代表される地域密着型でボトムアップの地域振興という対極にある取組で
双方とも頻繁に使われてきた 」(※7)という指摘があるように、 人や
立場により異なる意味合いで使われてきた 。 しかし、共通しているのは
最近まで人口増加や経済の発展をイメージし、国や自治体の政策目標とし
て人為的な地域活性化が位置づけられ、 助成金、交付金によって計画され
開発されてきた面は否定できない。いつまでも国は支援を続けるわけには
いかない。補助金でハード整備やイベントを実施して一時的に賑わっても、
支援の期間が終わればまた元の状態に戻ってしまうのでは活性化とはいわ
ないであろう。活性化とは、一時的な賑わいを意味しない。そこに住む人
が地域の生活に誇りを持ち、 自分たちの住むまちをよくしていこうとする
自律的で持続可能な活動の結果である。「 まちづくり 」は、地域に住み
続けるための生活しやすい住民を中心とした自律的で持続可能な地域社会
を作ることである。
 自律的で持続可能な地域社会を作るためには市民・住民の地域に対する
思いがなければならない。「市民・住民の意識の高まり 」はまちづくりの
原点であり到達点でもある。福井でも何度も経験したように、大きな災害
など地域の危機的な状況では目的に向かい住民の意識はまとまり、非常に
大きな活力となった。しかし、長期的展望が必要で当面の危機感を共有し
にくいまちづくりには住民の一致団結は難しい。 村上敦(2007)はドイツ
人気質と市民意識の向上について「社会や体制がどうあれ、自身の理念と
理想を追い求め、 実行するパイオニア達の存在がドイツでは際立っている
事実だけがここでは意味がある。彼らはどのようにすれば社会の意識、つ
まり他人の意識が高まるかなどとは考えない。自分の理想に向かってただ
行動するだけである」 (※8)と記している。蓋し名言であると思う。で
きるだけ多くの人に意識を向上させようとするより、自らの信念で行動す
ることが重要である 。結果としてより多くの人の共感を得ることになる 。
日本でも元気で活気がある都市には共通した地域のリーダーがいる。村上
の言葉を借りれば 「自身の理念と理想を追い求め、実行する」人たちであ
る。福井のまちづくりにもこのような人々の活躍を期待したい。 
               (地域経済研究所 准教授 小川 雅人)
                            

 (※1)山崎丈夫(2000)『まちづくり政策入門』自治体研究社 p.5
 (※2)石原武政(2000)『まちづくりの中の小売業』有斐閣p.46
 (※3)田村明(1987)『まちづくりの発想』(岩波新書)岩波書店p.52
 (※4)田中道雄(2006)『まちづくりの構造―商業からの視角―』中央
         経済社 p.4
 (※5)藤井聡(2008)「「交通まちづくり」と「モビリティマネジメン
         ト」」 『都市問題研究』第60巻第12号p.8
 (※6)石原武政(2000) p.46
 (※7)瀬田史彦(2010)「活性化から維持に向かう日本のまちづくり」
         『地域開発』vol.546 pp.26−29
 (※8)村上敦(2007)『フライブルクのまちづくり』学芸出版社p.254
  


                     





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