========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.64/ 2 0 1 0.7 .30 (FRI) 発行

 =================================

 米国発の世界自動車不況

 今回のコラムでは、最近話題になっている「米国経済・自動車不況」「
日本経済・自動車産業への不況波及」について述べてみよう。
「米国経済・自動車不況」
 「米国経済・自動車不況」については、まずGM、フォード、クライス
ラーなどの米国自動車メーカーは2005、2006、2007年頃からすでに赤字決
算に陥っている。米国国内の自動車販売は 2005年 1744万台、2006年1704
万台、 2007年 1614万台の高水準であるから、米国自動車市場が不況であ
ったため赤字決算に陥ったのではない。米国自動車メーカーは米国自動車
市場で日本メーカー、韓国メーカー(現代自動車)、欧州メーカーとの市
場シェア競争で敗れたために生産・販売台数が減少し、固定費比率が高ま
り赤字決算になった。
 日本自動車市場と異なる米国自動車市場の特徴を述べると、米国自動車
市場は米国経済の好況・不況に対応して自動車販売台数が増加・減少する
市場である、つまり経済成長率と連動すると考えればよい。米国自動車販
売台数は  1999年から 2006年 までの 8年間、1700万台を超える販売台数
となっている(それ以前は 1500万台程度)。これは 1999年以降の米国IT
バブルの好況と関連を持つ。一方、日本自動車市場は 1997年の 672 万台
を最後として 600万台市場に到達せず 500万台水準の販売台数が 10 年間
続いている、つまり日本自動車市場は成熟市場である。世界自動車生産台
数は 1990年 で 5000万台、 2000年で  5500万台、  2006年で 7160万台、
2008年 で 6450万台と推定され、自動車市場・自動車産業は世界という視
点から見れば、まだまだ成長産業なのである。移民増加で人口増加の見ら
れる米国自動車市場も成長市場なのである。このように増大してきた米国
自動車市場であるが、2008年 は 1316万台 で前年対比300万台の減少(減
少率:▲18%)、2009年は 1043万台と更に273万台の販売減少(減少率:
▲21%)と報道されている。
「日本経済・自動車産業への不況波及」
 「日本経済・自動車産業への不況波及」はこの米国自動車市場の不況と
密接な関連を持つ。その理由は日本自動車企業の米国利益依存度が非常に
高いことが挙げられる。トヨタ、日産、ホンダの連結決算報告書の「所在
地別営業利益」と自動車輸出利益(北米向け)を合計すると、3社の北米
利益依存度は世界連結利益の50%を超えているのである。
 さて、2009年 5月 8日の決算説明会で、トヨタ自動車は 「2009年 3月
期の連結営業損益が4610億円の赤字となった」 と発表した。 これは衝撃
的なニュースであった。第一に、トヨタ自動車は、 1950 年の労働争議の
混乱時期」を除いて、戦後一貫して赤字決算になったことがない会社であ
ること、第二に  2008年3月期決算では  2兆2700億円の膨大な営業利益黒
字の決算であった会社が、一転して赤字決算に追い込まれたことである。
 トヨタ自動車の決算説明会では、トヨタ自動車の営業利益赤字の減益要
因として、販売台数減少と為替変動要因が大きく取り上げられたが、私の
見方では増益要因である「原価改善の成果」がゼロ億円だったことが重要
だと判断する。トヨタ自動車は、1994年の円高危機(円/ ドルレートが一
時的に80円/ ドルの円高になった)以降、毎年 1000億円〜 1500億円の原
価低減を実施してきた。それが 2008年度の決算( 2009年 3月期)発表で
は、それがゼロ億円に減少しているのである。このあたりが今回の「日本
自動車産業への不況波及」のポイントと思われる。日本自動車メーカーは、
初心に帰って「円高コストダウン対策」「原価低減活動の推進」を実行す
べき、ということを示唆していると思われる。
 トヨタ自動車は、2010年 5月 11日の決算報告会で、「 2010年 3月期決
算では 1475億円の営業黒字を確保した」 と報告した、赤字決算を 1年間
で黒字決算に変えるのは”さすがトヨタ”である。この決算の「原価改善
の成果」は+5200億円、過去の平均値の3倍以上であり、いかに「 原価改
善の成果」の影響が大きいかを示している。しかし、営業黒字 1475 億円
は、2008 年度 3月期決算の2兆円 の営業黒字に比べて一桁少ない。トヨ
タの「原価改善活動の推進」と、中国・インドなどの自動車成長市場に対
する「グローバル製品市場戦略」の成果が、問われていると言えるだろう。

                      (経済学部 大鹿 隆)




                     





         このウィンドウを閉じる