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     VOL.66/ 2 0 1 0.10 .4 (MON) 発行

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地域主権時代における地方財政のゆくえと政策評価の役割

 最近、地方財政について市民向けの公開講座を開催すると多くの参加者
で賑わい、さまざまな質問もいただく。また逆に市民から講座を依頼され
ることもあり、市民の地方財政に対する関心の高さを感じる。このような
動きは、今後の地方財政にとって不可欠と考えているので好ましいと思う。
  そこで以下、市民と地方財政の関係について、今後の地域主権の動向を
踏まえて私見を述べることとしたい。
 自分が暮らす県や市町村の財政状況について正確に知っている市民は、
驚くほど少ない。これは国の財政状況ほど報道される機会が多くないこと
が一因であろう。ただし、地方財政も年々悪化していることは誰もが感じ
ているようである。そのような漠然とした不安感が、地方財政を知りたい
という学習意欲を生んでいる。
 地方財政の中心となるのは予算である。地方自治体は毎年、数百ページ
にも及ぶ予算書を議会に提出し、それに基づく財政運営を行う。そこで市
民が地方財政を知るには、予算書を知らねばならない。しかし予算書は数
字と文字の羅列に過ぎず、自分の家計簿は分かっても他人の家計簿は分か
らないのと同じように、予算書を初めて見る人にはそれが何を意味してい
るのか分からない。
 そこで最近では、予算に加えて政策評価という形で市民に説明する自治
体も多い。これは予算や決算のような数字と文字の羅列に加えて、その政
策がなぜ必要か(必要性)、今すべきなのか(緊急性)、他の手段と比べ
て効率的か(効率性)などの判断材料が加わっている。家計簿でも赤字を
なくしたいと思えば、これらの点を考えてどの支出を止めるか決めるであ
ろう。市民が自ら関心の高い分野の評価を読むことは、予算書を見る
よりもはるかに分かりやすい。評価結果は自治体のホームページなどに公
開され、いつでも市民が触れることができるので、ぜひご覧いただきたい。
 現状では評価結果を見る市民は依然として少ないようだが、今後の地域
主権の動向を踏まえると評価の必要性は確実に高まると思う。 6月22日に
閣議決定された「地域主権戦略大綱」で示されているように、地域主権の
主旨は「住民に身近な行政は、地方公共団体が自主的かつ総合的に広く担
うようにするとともに、地域住民が自らの判断と責任において地域の諸課
題に取り組むことができるようにする」ことである。つまり、あくまで原
則論だが、地域の自己決定を優先することである。
 これは財政面でも同じである。国の財政状況は地方よりも危機的である
にもかかわらず、先の参議院選挙では消費税増税論議が与党敗北の背景に
あったとされる。そうした状況で、国が地方に財源保障する余地は確実に
小さくなる。そこで地域の自己決定とは、自らの財源負担も問われる形に
なってくるのである。
 今までは決まった税額を必要性の高い政策に配分することが予算編成で
あった。景気が良ければ税収も多く、悪ければ税収は少ない。多い年は多
いなり、少ない年は少ないなりに配分していたのである。しかし、これか
らは景気ではなく「負担が増えてもその政策は必要か」を考える時代にな
る。
  つまり不景気で税収が少なくても必要な政策ならば増税して実施し、景
気が良くなれば減税するようなことが起こりうる。負担を決める時、市民
の地方財政への関心が高まること必至である。政策評価の機能が問われる
のでは、そのような時ではないだろうか。

                                (地域経済研究所 講師 井上 武史)



                     





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