========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.67/ 2 0 1 0.10 .29 (FRI) 発行

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「体験型観光が地域にもたらすもの」

 10 /1に着任した江川誠一と申します。坂井市坂井町出身で 2度目の U
ターンとなります。地域に貢献すべく積極的に研究活動を行いたいと思い
ますので、どうかよろしくお願い致します。
 本コラムでは、観光や環境分野に係る地域政策をテーマに、普段の暮ら
しを通じて感じうる身近なアプローチを心掛けつつ、研究活動の成果をご
紹介していきたい。第1回目として、体験型観光を採り上げる。
 体験型観光は、今や観光振興を図る上で欠かせない概念となっており、
何らかの体験を含めることは各観光施設にとって、もはや当たり前の時代
となっている。それではこのような体験型観光は、地域住民や地域経済に
とって一般的な物見遊山型の観光とどこが違うのであろうか。
 体験型観光は、その特性から観光客に対し説明や支援が不可欠であるが、
必然的にガイド役が必要となり、観光客が消費する金額のかなりの割合が、
ガイド役を中心とする地域の方々にもたらされる。体験で使用する設備や
道具類は、地域固有のものは当然として、そうでないものについても地域
のネットワークを生かして地域産品を用いることが多く、必然的に域内調
達率が高くなる。また、体験メニューの企画は都市部のエージェントによ
るものではなく、地域が地域目線で創意工夫及び継続的な改善を施したも
のである。地域で新たな組織化あるいは既存組織の強化がなされ、そこに
達人の知識や技とそれらを効果的に観光客に伝える手法、及び組織の効率
的な運営手法等が集約される。さらには、ガイド役が有償であれ無償であ
れ、都市住民や子供へ知恵を授けること自体が、中高年層を中心としたエ
キスパートの生きがいとなる。地域の人たちが地域に一層の誇りと愛着を
持ち、地域づくりへの参加意識が強まるとともに具体的な行動へと結びつ
いていく。
 以上の効果をまとめると次のようになる。
◆地域住民・産品を大いに活用するため、地域への経済効果が高い
◆属人的なものから組織的なものまで、地域にノウハウが蓄積する
◆地域住民の生きがいとなり、まちづくり活動等の活性化へと波及する
◆以上より、好循環が地域に生じ、息の長い活動として地域に定着する
 このように、体験型観光は地域へ有形無形の大きな波及効果をもたらす
が、地域産業との関わりについては農林水産業や伝統産業において特に強
い。農林水産業を基盤とするような地域にとっては、体験型観光との結び
つきが地域活性化の一手法として今後ますます重要になるものと思われる。
本県に多く存在する伝統産業にとっては、伝統文化・地域文化の継承や後
継者育成という視点からも、体験型観光の活用策が一層検討されてもよい
のではないだろうか。一方、ものづくり産業では、積極的に工場等を開放
し、ものづくりの歴史の学習、工程の見学、さらにはものづくり体験等を
行っているところも数多く存在する。業種や業態によっては様々な制約が
あるものの、短期的・直接的な経済効果だけでなく、長期的・間接的な効
果を踏まえた事業上の費用対効果を検討し、このような取り組みに挑戦し
ていくことも必要ではないか。

                 (地域経済研究所 講師 江川誠一)




                     





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