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     VOL.69/ 2 0 1 0.12 .28 (TUE) 発行

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中小企業振興基本条例
 2009年 3月24日に「福井県中小企業振興条例」が公布された。目的には
「…中小企業の振興に関する施策を総合的に推進し、もって県内経済の活
性化および県民生活の向上に寄与する…」 (第 1条 )である。県の責務を
明確にするとともに、中小企業者の自主的な努力を求めている( 第 3条)。
また、2010年6月18日には「中小企業憲章」(以下 憲章)を政府が閣議決定
した。憲章の前文には「中小企業は、経済を牽引する力であり、社会の主
役である」と宣言している。憲章の中では中小企業の役割や中小企業政策
の行動指針を示している。
  世界経済は成長の中心を新興国に移し、金融や情報などのグローバル化
に伴い経済のスピードが一層早くなり、地域経済が取り残される傾向が顕
著になっている。全国的に大規模公共投資や工場誘致による活性化策は地
域経済の持続的発展には結びつかなくなった。
  現在( 2010年12月10日 )、15の都道府県、53の市町村で「中小企業振興
基本条例 」もしくはそれに類する条例ができている 。( ※ 1)全国で最
も早く1979年に中小企業振興基本条例を制定した東京都墨田区は、中小企
業のまちとして全国の中小企業施策の先進地として注目された。墨田区は
1970年代の 2度のオイルショックを契機に区内の工場流出やそれに伴う地
域内活力の低下が深刻となり中小企業振興施策を早期に立案することが必
要となった。そこでまず1977年〜1978年にかけ区内工場の実態調査を始め
た。区役所の係長級の職員 180名が約 9,000の町工場を訪問し経営者から
直接実態を聞き取り調査した。1978年〜1979年には卸売業・小売業の実態
調査をした。それらの実態調査に基づき中小企業振興条例を制定した。区
の係長級職員が直接現場をみることで中小企業の現状を実感し、何が必要
かを把握し墨田区ならではの個性ある施策を実現してきた。たとえば、事
業者の製品開発のため安価な最新機械設備を利用できる中小企業センター
を設置した。またものづくりのイメージアップのための「3M運動」( ※2)
を実施した。政策立案の継続性のためには、「墨田産業振興会議」を設置
し、学識経験者に加え、地元の意欲がある中小企業経営者を委員として任
命し直接施策の検討をするのである。これらをはじめ数多くの施策を実施
しているのである。
  昨今急速に増えている条例についても、かつては自治体の中小企業施策
として中小企業経営の直接支援である補助金・融資が中心で、その根拠と
されている例がなかったわけではなかった。ただ、今日の地域の自立化と
ともに地域内循環経済の推進が急務となっている時代に地域内循環経済の
推進に向けた地域づくり・まちづくりの中心的役割を果たすことが期待さ
れるのである。一方的な中小企業支援ではなく、中小企業、業界団体、自
治体を含む支援機関、住民等様々な主体による地域づくり・まちづくりの
役割分担を明確にすることができるからである。これら条例制定によって
すぐに地域内循環経済ができるわけではない。重要なのは共通の目標に向
かい様々な活動や施策が地域の個性に合わせ実現されることである。
  中小企業憲章や中小企業振興基本条例は法律でなく、また強制力はない。
ただ、中小企業の地域経済における重要性の根拠として位置づける自治体
の意思の宣言である。これらの憲章や条例に基づく中小企業、業界団体、
自治体を含む支援機関、住民等様々な主体による地域づくりのための役割
分担を明確にするとともに具体的な活動を期待したい。      
                              (地域経済研究所 准教授 小川 雅人)


( ※ 1)条例のある都道府県は、埼玉、茨城、三重、北海道、青森、千葉、
熊本、神奈川、奈良、山口、徳島、沖縄、福井、大阪の各都道府県である。
ただ、京都府と群馬県は政策条例であったり「中小企業」という文言がな
いため除外している( 岡田知弘他著(2010)『中小企業振興条例で地域をつ
くる』自治体研究社 46ページ)。条例設置市町村の詳細は省略。
  ( ※2)ミニミュージアム運動(街中に墨田区を象徴する産業や文化に関
係あるもーコレクション民家等に展示する)、マイスター運動(ものづくり
技術を継承する技術者の認定)、モデルショップ(製造と販売を一体化させ
た店)の3事業の頭文字のMを使った施策