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     VOL.70/ 2 0 1 1.1 .31 (MON) 発行

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「住みよさランキング」を考える

 東洋経済新報社が毎年発行する「都市データパック」では、住みよさラ
ンキングが公表されている。これは大きく注目されており、とりわけ福井
県内の市は順位が高いことから「福井県=住みよい」という認識ができて
いる。最新の2010年版によると、全国 787市のうち 1位は愛知県みよし市、
 2位も同県日進市、 3位は千葉県成田市である。福井県では坂井市が12位
で最も高く、続いて福井市の14位、敦賀市の23位、鯖江市の71位と続いて
いる。 100位以内に 3市が入っている。
 実は、これでも福井県の順位が大きく低下している。福井市は全国 1位
の常連であったし、県庁所在地で唯一 1位を獲得した市でもある。また上
位10市のうち 4市を福井県が占めた時期もあった。当時はまだ県内 7市で
あったから、過半数の市が上位10位に入ることは他の県では考えられない
ことである。それから考えれば最近の結果は物足りない気もするが、もち
ろん福井県が住みにくくなったのではない。ランキングの集計方法が見直
されたのである。しかし、いずれにしても福井県が住みよい県だと言えそ
うである。
 なぜ住みよいのか。その理由は「ほどほど」という一言で表せる。つま
り人口がそれほど多くないこと、商業や医療などの機能が一定水準あるこ
と、そして他の大都市とそれなりの距離があること、これらは「ほどほど」
という状態と言えよう。特に福井市は県庁所在地としての中心的機能を集
積しつつ人口がそれほど多くないため、人口比での高水準を保持してきた
と考えられている。
 ところで住みよさランキングに限らず、全国の都市を比較する場合には
人口当たりに換算されることが多い。人口規模が異なれば集まる都市機能
の規模も異なるのだから、人口当たりに換算しなければ東京や大阪などの
大都市が上位を占めるはずである。それでは不公平だというのが人口当た
りで比較する根拠となっている。
 また人口当たりに換算することは、高度経済成長に伴って生じた都市問
題への認識があったと思われる。都市問題は大都市に企業の中枢機能が過
度に集積することで生じる問題である。企業は大都市への集積でメリット
を得られるが、生活者には通勤ラッシュや居住環境の低下(会社に近い場
所では狭いマンションにしか住めず、マイホームが欲しければ会社から離
れた場所になる)といったデメリットをもたらす。地域によって都市機能
と通勤人口、居住人口のバランスが崩壊するのが都市問題であるから、各
地域で人口当たりで都市機能の水準を上げることこそ都市問題を克服し、
どこでも快適に暮らせるための基準と考えられていたのである。
 しかし現代は都市問題よりも都市衰退が問題視され、人口も減少と高齢
化が進むなど複雑な様相を呈している。その中で従来のような人口当たり
での住みよさは意味を持つのであろうか。特に人口が減少すれば一人当た
りで換算すると分母が減ることになるため、水準が上昇することになる。
これで住みよくなったとは言えないであろう。
 また平成の市町村合併によって公共施設を始め都市機能が中心部に集約
されれば、合併によって人口が増えたのに機能が縮小するため、住みよさ
は大きく後退することになる。公共施設の集約は財政面での節約になるた
め評価されるが、これとは反対に商業や医療の施設集約は住みよさを低下
させることになる。これも矛盾した見方である。
 筆者は住みよさランキングも、福井県が住みよいことも否定しているの
ではない。上に述べたような環境の変化、前提の変化があることを踏まえ
ることが必要である。そして何よりもランキングの変動に一喜一憂するの
ではなく、ランキングをきっかけに地域に住む人々が自ら住みよさを考え
てもらいたいのである。ランキングに実感がわかない人も、それを否定す
るだけでなく住みよい都市の姿を描いていただきたい。それこそが、新し
い地域作りの形ではないだろうか。

                                 (地域経済研究所講師 井上 武史)