========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.71/ 2 0 1 1.2 .28 (MON) 発行

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 変容するグローバル化と地域企業の対応

  近年の日本企業におけるグローバル化の動きをみると、まず製造業にお
いては、東アジアを中心に一つの産業が分散立地するフラグメンテーショ
ン化の動きが進んでいることが挙げられる。フラグメンテーション化とは、
もともと 1か所で行われていた生産活動を複数の生産ブロックに分解し、
それぞれの活動に適した立地条件のところに分散立地させることをいう。
半導体関係を中心とする電子機械産業が典型例であり、近年では自動車産
業においてもその動きが見られるようになった。工程ごとの技術特性を考
えて、重要部分を日本に残し、他の工程を東アジア諸国に立地させれば、
全体の生産コスト削減が可能となる。この場合、日本の地域内にある産業
を例に考えると、その産業を将来的に維持・発展させるために、どの部分
の工程を地域に残すかが重要となるが、それには多様性が期待でき将来性
ある生産分野が適当であり、さらに付け加えるとすれば高付加価値を生む
生産分野を残すべきということになろう。

  そして二つ目の変化は、東アジア諸国の経済発展によって、リバース・
イノベーションという概念が定着しつつあることも確認しなければならな
い。この言葉の意味は、これまでのように先進国の新興国への進出によっ
て、知識・イノベーションが、先進国から新興国へと一方的に流出してい
た時代から、新興国の成長が進むにつれ、その流れが双方向で起きている
現象を指している。つまり、日本の製造業では、元来、試験・研究開発部
門や生産ノウハウの構築など知的生産力を伴う領域は国内に残し、量産分
野のみを海外にシフトするやり方が取られていた。しかし、近年では研究
開発から量産化までの一連の流れを新興国にて賄おうとする動きが出始め
ている。こうした動きは、グローバル市場での最適生産を促し、海外市場
での販売力を付けるという意味では効果的な動きととらえることができる。

  そして今、さらなるグローバル化の現象として  FTA、EPAなどの地域経
済統合の進展や、昨年には新たな統合制度として TPPへの参加(不参加)
が日本国内で議論を呼んでいる事実を確認しなければならない。こうした
地域経済統合の盛り上がりは、これまでの海外直接投資を中心とするグロ
ーバル化の時代から、国境を超えた市場の統合・開放などを通じて、さら
なるグローバル化・ボーダレス化の時代へと進化していることを示唆する
ものである。
 
  このように変容するグローバル化の中で、地域企業は今後いったいどの
ような策を講じればよいのか。一つ言えることは、グローバル化が、これ
までのような資本の海外移動、つまり、販売拠点を設けての海外市場への
参入あるいは海外生産によるローコスト追求といった側面だけでは語れな
い時代に入ったこと。例えば、生産面でのグローバル化を考える場合、自
社の生産拠点を東アジア諸国に移しローコストのみを追求する戦略だけが
地域企業のグローバル化ではないということである。生産のフラグメンテ
ーション化の中では、付加価値が高く競争優位を確保できる自社が守らな
ければならない生産ブロック、ポジションは何かを追求することが必要と
なろう。

 一方、リバース・イノベーションの進展については、今後、新興国から
先進国へ新たな技術やノウハウが逆流入し、先進国の市場や生産体制その
ものに変化を与える可能性が強い。そのため、将来的に国際展開を検討す
る企業では、生産拠点はあくまで地域に残し、新興国から素材、部品や技
術ノウハウを輸入し利用することでローコストを図ること、さらに完成品
自体を輸入し国内市場或いは海外市場に回すことも選択肢の一つとして考
慮しなければならない。また、建設業や、卸・小売業、サービス業などの
内需を主とする企業においても、 TPPなどの参加が具体化すれば、これま
で以上にグローバル化の影響を受けることが予想される。従って、こうし
た企業では、リバース・イノベーションの流れを逆手にとり、うまく活用
しながら国内需要或いは海外需要の掘り起こしに役立てる手法を検討すべ
きであろう。

  具体的には、自社の流通そのものを見直し、品質やコスト面で競争力の
高い海外品にも目を向けること。また、海外と競合する製品を国内で生産
する企業においては、これまで以上にコスト競争力の追求や付加価値品の
生産を求められることを意識しなければならない。

                 (地域経緯研究所 教授 南保 勝)