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     VOL.74/ 2 0 1 1.5 .31 (TUE) 発行

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  再生可能エネルギーの経済性(その1)

  東日本大震災による原子力発電所等の停止と、その結果問題となってい
る電力不足を契機として、再生可能エネルギーへの注目度が増している。
再生可能エネルギーは、2005年度において一次エネルギー国内供給の 5%
程度を占めるに過ぎず (1)、震災前の政府の方針は、積極的に推進した上
で2020年度までに10%に達することを目指すというものであった(2)。 菅
首相はこの目標を含むエネルギー政策を抜本的に見直すことを表明してい
るが (3)、具体的な見直しの内容やその実現性についてはまだ不透明であ
る。直感的には環境にやさしくまた無尽蔵にあると思われる再生可能エネ
ルギーの利用が、思ったより普及が進まない理由として、その経済性の問
題があげられる。
  発電者としての経済性は、大まかに言って、設備導入コストと維持管理
コスト(発電の原料費を含む)から導き出される売電単価が、現在主力と
なっている火力や原子力と比べて競争力を持ち得るかということである。
環境省の試算によれば、この点を加味した風力発電のポテンシャルは2,400
〜14,000万kWと極めて大きく (4)、全国の発電容量の11. 8〜68. 6%を占
めるまでになる (5)。この試算を見る限り、事は簡単に思える。しかしな
がらその実現に向けては、次の2点が課題になると思われる。
   1つは、設備利用率を向上させること。上述の試算は設備容量としての
比較であり、風力発電は設備利用率が原子力発電等に比べて低いため (6)、
今般の被災を受け原子力発電の設備利用率は大きく低下することが見込ま
れるものの、実際に使える発電電力量でのシェアはこれより低くなると思
われる。故障・事故対策や適正立地等により、その高いポテンシャルを最
大限に生かす方策が求められる。
  もう 1つは、電力需要者の理解を得ること。先の試算は FITシナリオに
よるものだが、これは「現状のコストレベルを前提とし、2011年 3月に閣
議決定された『電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する
特別措置法案(FIT法案)』の実現」を想定している。FIT法案では、再生
可能エネルギー源を用いて発電された電気について、国が定める一定の期
間・価格で電気事業者が買い取ることを義務付けるとともに、買取に要し
た費用に充てるため各電気事業者がそれぞれの需要家に対して使用電力量
に比例した賦課金(サーチャージ)の支払を請求することを認めるという
ものである。分かりやすく言えば、電気事業者が再生可能エネルギーを火
力等よりも高く買い、その分を通常の電気代に上乗せすることで回収する
ということである。現状では、風力発電をはじめとする再生可能エネルギ
ーの更なる導入には、電気代値上げによる家計や企業収益の悪化が不可避
であることを、電力需要者が理解し協力することが必要である。

(1) 「長期エネルギー需給見通し(再計算)」2009年8月、経済産業省
(2) 「エネルギー基本計画」2010年6月、閣議決定
(3) 「(エネルギー基本計画について)いったん白紙に戻して議論。再生
    可能な自然エネルギーと、エネルギーを今ほど使わない省エネ社会に
    これまで以上に大きな力を注ぐ」2011年5月10日、記者会見
(4) 「平成22年度再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」2011年 3月、
    株式会社エックス都市研究所・アジア航測株式会社・パシフィックコ
    ンサルタンツ株式会社・伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(環
    境省委託事業)。数値は FIT対応シナリオ。
(5) 「電力統計情報」2009年度、電気事業連合会。最大出力20,397万kW
    (うち火力12,234万kW、原子力4,623万kW)
(6) 風力発電の設備利用率:約20%「風力発電利用率向上の課題と展望」
    2008年6月、イー・アンド・イー ソリューションズ株式会社。原子力
    発電所の設備利用率:60%「平成20年度の原子力発電所の設備利用率
    について」2009年11月、経済産業省。

                                  ( 地域経済研究所 講師 江川誠一)




                     





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