========地域経済研究所 eメールマガジン========= VOL.75/ 2 0 1 1.6 .29 (WED) 発行 ================================= 四川大地震から見た中国の大胆な震災復興策 5月12日には、中国四川大地震の発生から3年を迎えた。三年前、四川 省の■川でマグニチュ−ド 8.0の地震が発生した。この地震は、中国1949 年の建国以来最も大きな地震であり、死者、行方不明者は8万7千人を超 え、被災者は約4600万人に上った。被災地域は、四川省、甘粛省、◆ 西省など主として10個の省、自治区に影響を受け、被災面積は約50万平 方kmであり、日本の国土面積をはるかに超えた。地震発生の数時間後、温 家宝首相はすぐ現地入り、特別救災指揮部を設置し、迅速な人命救災を行 ったと同時に大胆な震災復興策を実施した。 四川大地震の復興過程は,日本の災害復興を見慣れている者の目から見 ると,極めて急スピードで推進されている。地震から1ヵ月も経たない6 月8日には、中国政府から「■川地震震災復興再建条例」が復興特例法と して制定され、地震発生から3ヵ月後の8月12日には、より具体的な復 興計画として「国家■川地震震災復興再建基本計画」も策定され、震災復 興の基本方針や国の行財政の枠組などは法律の形で明確に定められた。さ らに、中国政府はこれら法律に基づいて全国から各分野の専門家を集めて、 約 3万件の復興プロジェクトを制定し、給付資金の総額は 9.386億元とな る。被災地では、各プロジェクトによって休日抜き,24時間の突貫工事が 続けられた。地震発生後 3 ヶ月の時点では、50 万戸以上の仮設住宅を建 設し、 2年間では、 500万戸以上の住宅を修復・再建した。これらの建設 は、単なる復旧事業ではなく、新たな発想によって街づくりを行った。被 災された農村部では、新しい場所で「新農村」の建設を展開し、都市部で は、日本の災害公営住宅ではなく、被災者向けの「分譲住宅」が政府から 建設され、多くの被災者は従前の住宅と「分譲住宅」を交換するという 「住宅交換」政策によって新しい住宅を入手していた。 被災地が地震から早く復興出来たのは、もう一つ要因があり、これは各 地方自治体の積極的な支援である。地震発生後、中国政府は、経済の発達 した地域の自治体が被災地域を1対1で支援する「対口支援」政策を公布し、 中国沿岸部の諸省がその規模と支援を受ける市・県の被害状況に応じて国 により割り当てられ、救済資材だけでなく技術者や労働者も送られてきた から被災地への迅速な救援と復興に非常に大きな役割を果たしている。こ の政策は、国が各省から財源や資材を提供してもらい再配分するより効率 的な仕組みとはいえ、被災地の時々のニーズに応じたきめ細かい支援をす ることができるため、日本でも注目を集めている。今年の 3月25日に日本 学術会議は中国の「対口支援」政策を「ペアリング支援」と名づけ、東日 本大震災の被災地支援手法として政府に緊急政策提言も行った。 これら大胆な震災復興策によって、被災地の住宅・工場を修復・再建し ただけではなく、経済もいち早く回復した。中国の統計数字によると、地 震翌年の2009年には、四川省のGDPは既に前年比14.5%増の 14.151億 3.000万元となり、固定資産投資は前年比 58.1%増の12.020億7.000万元 となり、社会消費品小売総額は前年比 20.05%増の 5.758億 7.000万元と なった。また、固定資産投資の増加等により約40万人の雇用機会が創出 され、「重度被災地99.9%の世帯で最低 1人の就職を実現する」という就 職促進政策の目標が早めに実現したが、重度被災地(■川)の農民一人当た りの現金収入は、地震発生後の翌年の時点でも既に四川省平均を 600元上 回った。 中国四川大地震と東日本大地震との被害状況や地域特性は違い、両国の 社会情勢や政治体制も違うが、「地震復興のもつ普遍性」の観点から考えれ ば、上述した中国の「政府主導」、「震災復興の法制化」、「対口支援」、 「住宅交換」などのやり方や復興政策は日本の震災復興にも参考すべき点 があるのではないかと思われる。日本は世界各国の震災復興の経験と教訓 を活かして、東日本大地震から一日でも早く復興できるように期待している。 (経済学部 准教授 福山 龍) ※◆部の文字は左側が(こざとへん)、右側が狭の右側の部分を合わせ た文字です。◆西省(せんせいしょう) ※■部の文字は左側が(さんずいへん)、右側が文を合わせた文字です。 ■川(ぶんせん) このウィンドウを閉じる