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     VOL.76/ 2 0 1 1.7 .29 (FRI) 発行

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地方からの震災復興

 「あれが欲しいこれが欲しいはだめだぞ、知恵を出せということだ。知
恵を出したところは助け、出さないやつは助けない」「県で(漁港再編問
題の)コンセンサスを得ろよ。そうしないとわれわれは何もしないぞ。ち
ゃんとやれ」(注1)。7月 3日に辞任した松本龍前震災復興担当相の問題
発言である。 2つの発言のうち最初のものは岩手県の達増拓也知事に対し
て、後のものは宮城県の村井嘉浩知事に対してである。
 この「上から目線」の高圧的な発言に対して、被災地の住民は「我々を
ばかにしているのか」と怒りをあらわにし、村井知事は「国と地方自治体
は主従関係ではなく対等なパートナーだ。命令口調でなく、お互いの立場
を尊重するような話し方の方がよかったのではないか。取り方によっては
『国の方が偉いんだ』ととらえる人もいると思う」と疑義を呈したという
(注2)。この発言の責任をとり、松本氏は就任からわずか9日で辞任して
しまった。
 どこに問題があったのか。
 この発言は映像で確認するのと文字で読むのとではまったく受け取り方
が異なる。映像で見る限り大臣の口調は確かに高圧的であり、「知恵を出
せ」「ちゃんとやれ」という言葉には上から目線の命令のような感じを強
く受ける。その印象の悪さから、問題発言と受け取られて辞任するのもや
むを得ないであろう。
 しかし、発言内容の核心部分に問題があるとは思えない。上の発言は震
災復興における国と地方の役割を述べたものだが、「地方主導による復興
を国が応援する」という国のスタンスが明確に語られているからである。
「知恵を出したところは助ける」「県でコンセンサスを得ないと国は何も
しない」という部分は、地方の主体性を大前提として国の役割があること
を意味しているだろう。これはまさに地方が国に対して求めていることで
もある。口調では主従関係のように受け取られても、内容はまさに村井知
事の言う対等なパートナーとしての関係を踏まえているのではないか。
  5月21日に埼玉県所沢市で開催された自治体学会緊急フォーラムでは
「東日本大震災〜自治体はどう立ち向かっていくか〜」をテーマとし、結
論は「地域主体で復興し、それを国が支える」であった。もちろん自治体
の立場からのものである。国は復興の基本的な方向性を示しつつ具体策は
地域の主体性に委ねること、そして国は財源面で支えることとされた。こ
のことが松本前大臣の真意とどこまで合致するかは不明だが、大臣と知事
で相互のコミュニケーションを重ねていれば国と地方の理解は大きく深ま
ったのではないか。
 筆者は決して松本前大臣を擁護するつもりはない。「口は災いの元」と
いうだけでなく「口ぶりは災いの元」でもあるのだ。そこまで配慮してこ
そ大臣だと思う。なでしこジャパンを女子サッカーワールドカップ優勝に
導いた佐々木則夫監督が女子選手の監督として「上から目線」ではなく
「横から目線」でなければならないと言っているそうだが、国と地方自治
体もまた主従関係ではなく対等なパートナーである以上、相互の役割分担
だけでなくコミュニケーションを「横から目線」に転換しなければならない。


(注1)WEB版産経ニュースより
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110705/plc11070500230000-n1.htm
(注2)WEB版産経ニュースより
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110704/plc11070418170024-n1.htm

                                            (地域経済研究所 井上)




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