========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.77/ 2 0 1 1.8 .31 (WED) 発行

 =================================


「持続可能な地域づくりのため経済自立度を目標に」

 地域内循環型経済の必要性は、シューマッハの『スモールイズビューテ
ィフル』(講談社学術文庫1986年)でもよく知られことになった。同時に必
要性の意義だけでなく今はどのような産業が必要か、また政策的にどのよ
うに進めるかの議論になり、国内でも多くの研究者が論じている。例えば
吉田氏(※1) は、地域内循環経済を推進するについて、地域産業は、地域
特性を基礎においた生活必需産業として衣食住関連業種を重視しなければ
ならないという。また、必ずしも地域でなくてもよい産業として、製品の
機能は科学技術の成果であり地域性を超えた普遍性を有する生活利便性、
快適性の向上に資する産業、例えば自動車や家電に代表される産業である。
地域産業のグローバルとローカルの役割分担は大きな議論があるものの、
地域にとって欠かせない視点は、住人の福祉の向上のためにも経済ができ
るかぎり地域の中で循環することである。
  このような中でこの地域内循環経済の推進を政策目標に掲げ推進してい
る例がある。長野県飯田市である。同市は人口10万人余の都市であるが、
07年度からの基本構想・基本計画で「人材のサイクルづくり」を目指して
いる。目指す都市像として@地域から流出した若者が帰ってこられる産業
づくり、A帰ってきたいと考える地域づくり、B住み続けたいと感じられ
る地域づくりを目指している。その実現のために策定したのが飯田市の
「地域経済活性化プログラム」(※2) で、この背景となる政策が雇用機会
の受け皿となる地域内循環型経済の推進による地域経済活性化である。
この中で注目されるのが「経済自立度」という政策目標値である。経済自
立度とは、地域に必要な所得を地域産業からの波及効果でどのくらい充足
できるかという視点であり、地域産業からの波及所得額を地域全体の必要
所得額で割った値である。解説によると、対象としている地域は飯田・下
伊那地区(南信州地区)で、その地区の製造業、農林業、観光業を地域産
業として「外貨獲得産業」(※3) と呼び、その地域産業の所得額の波及効
果を 5次波及まで分析している。また、地域全体の必要所得額は全国平均
の年間 1人あたり実収入に同地区の人口を乗じて計算している。10年度は
44.1%である。09年度は42.1%でやや上昇したものの、市ではまだ低いレ
ベルとしている。長野県飯田市はこの経済自立度は当初目標とした70%は
最近の経済状況からは厳しいが、50%は超えたいとしている(飯田市地域経
済活性化プログラム担当)。
 飯田市は同市を含み周辺に大学を持たない。高校を卒業した若者の 8割
が大都市圏に出て行き、最終的に戻ってくるのは 4割程度という。市とし
てIターン・ Uターンを促進し、如何に「人材サイクル」を実現するかを狙
っている。持続可能な地域産業づくりには人材確保のための地域産業育成
が重要という認識を持っている。地域経済波及分析を通じて政策目標に
「経済自立度」を掲げ、南信州定住自立圏を構成し周辺町村との役割を明
確にしようとしている。特に経済自立度は「飯田・下伊那経済自立化研究会
議」で定量的に評価する独自の指標である。この会議は行政体だけでなく、
産業団体等広く官民の有識を結集した結果である。
 地方都市の悩みは共通である。飯田市でも間接的ながらこのプロジェク
トに重要な役割を果たしたのは地元金融機関であり、支援機関である。地
域の人材、組織資源は豊富であり、飯田市の例は同市の特殊性ではない。
経済指標だけでない地域福祉の指標は改めて問われることになろう。


(※1)吉田啓一・井内尚樹編著(2010)『地域振興と中小企業-持続可能な循
   環型地域づくり-』ミネルヴァ書房
(※2)飯田市(2011)『地域活性化プログラム―未来を見据えた産業連携の
   進化と地域産業に持続的発展への支援―』詳細は「地域経済分析資
   料編」参照
(※3)飯田市(2011)の「地域経済分析資料編」の解説の表現を使った



                                       (地域経済研究所 小川雅人)



         このウィンドウを閉じる