========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.78/ 2 0 1 1.9 .30 (FRI) 発行

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  3月11日の悲劇からもう半年となりました。救助活動・瓦礫の処理・仮
設住宅の建設などははやく行われ、被害を受けた地域の復興は新たな段階
に入りました。しかし、今後の三陸地域はどうなるのかということについ
て、基本的なビジョンはまだできていません。世界を見ても大震災後の地
域活性化の実例は少ないですが、日本に近いロシア極東地域及び中国の沿
岸地域の開発に重要なヒントがあると思われます。
  9月4日から2週間にわたってロシアの極東に行き、その後すぐ中国の吉
林州及び杭州に行ってきました。ウラジオストク市とハバロフスク市へは
11年ぶりの旅となり、長春市と杭州市は初めてです。ロシアでは科学アカ
デミー研究所のシンポジウムに参加し、それ以外に建設現場・魚の養殖場
・ロシア人の別荘(ダーチャ)を訪れました。中国では大学間交流を行い、
その他に小学校、高校、市内病院、一般市民が買い物をするスーパーマー
ケット、そして大学教授のマンションを見にいきました。 2週間でおよそ
20人のロシア人と中国人とゆっくり話ができ、特にウラジオストクと杭州
の市民は日常生活で、共通の問題を抱えていることがわかりました。ウラ
ジオストク市は非公式で住んでいる人も含めた人口が約100万人であり、
ロシア極東地域において最大の都市となっています。2012年にアジア太平
洋協力機構(APEC)のサミットが開かれるので、市内では建設ラッシュが
起こっています。杭州市の人口は約800万人、中国国内でも高い生活水準・
まちの美しさ・豊かな自然で有名な町です。人口は毎年増えており、また
全世界から多くの観光客が訪れるので、市内ではマンション・地下鉄・道
路の建設が速く進んでいます。この二つの開発中の都市の住民は、住宅価
格の高さ、市内交通の不便さ、社会サービスの不十分さに不満を持ってい
ます。専門家に聞きますと、今までの都市開発の方法は限界に近づいてい
るそうです。市内環境の本格的な改善のためには、土地の個人所有より集
団所有、個人住宅より集団住宅、マイカーに基づいた個人交通手段より公
共交通手段の開発が望ましいと言われています。これは社会主義計画経済
の都市開発へのアプローチに良く似ていますが、別の側面から見ますと、
大都市の開発において自由的市場経済は大きく失敗していますので、「市
場失敗」の改善のために「国家介入」が必要です。
 日本の三陸地域は甚大な被害を受けて、以前からの人口減少、加工産業
の空洞化、地域財政の悪化などが深刻化しています。従来型の地域開発は
不可能と思われますので、よりコンパクトで安い社会インフラの再建の必
要性は明確なものです。高い防波堤で囲まれた土地に、25年間しかもたな
い木造住宅を作るより、高台に集団団地をつくり、またマイカーの必要が
ないコンパクトで安い町づくりへのアプローチが適切であると思われます。
50〜60年前には、マイ土地に建てたマイホームとマイカーがアメリカの夢
となり、その後は日本の夢ともなりました。しかし今は、特に三陸地域に
おける社会環境は根本的に変わりました。同じような変革が国家の役割、
市場経済の機能、そして一般市民の価値観に不可欠なのではないでしょう
か。つまり共有・共住・共生に向けた方向転換が必要なのです。

          (福井県立大学経済学部教授 アンドレイ・ベロフ)



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