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     VOL.79/ 2 0 1 1.10 .28 (FRI) 発行

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県内企業における取引構造の変容

 1985年のプラザ合意以降、急激に進展したグローバル化、とりわけ日本
企業の海外進出は、地方圏において生産減少、雇用の喪失等を招き、結果
として経済活力が低下するなど様々な負の影響をもたらした。例えば、著
者がフィールドとする福井県においても、地域を代表する繊維業界では、
衣料分野で原糸メーカー主導の国際展開が進んだ結果、現在、東アジア諸
国の追い上げと内需不振のなかでその生産規模を縮小させている。また、
眼鏡業界でも産地企業の海外シフト進展による結果現象として、大勢を占
める小規模零細企業を中心に、2000年以降、海外製品の流入に悩まされて
いる。
  こうした現実を踏まえ、本学地域経済研究所では、この度、進展するグ
ローバル化が地域の産業・企業にどのような影響を及ぼしているのか。特
に、グローバル化進展により企業の取引構造がどのように変容しているか
を、県内企業を対象としたアンケート調査(「福井県企業の取引構造に関
するアンケート」、調査期間:2011年 9月15日〜30日)から分析すること
を試みた。
 その結果から、過去10年間で、各企業の取引構造がどう変化したかをみ
ると、総じてどの産業も10年前と比較し取引企業数(販売先数)の増加が
みられるものの、各産業の取引企業数を地域別でみた場合、建設業やサー
ビス業では10年前と比較し取引先の地域変化(販売ネットワークの広域化)
が極めて乏しい事実が浮き彫りとなった。つまり、建設業やサービス業で
は、産業特性を無視はできないまでも、総じて取引先(販売先)の域外へ
の広がりが低い。一方、製造業では、10年前と比較し取引先の県外・海外
依存率が比較的高く現れており、国内における販売ネットワークの広域化
とともに、グローバル化への対応が早くから行われている事実がわかった。
同じく、卸・小売業においても、傾向として取引企業(販売先)の広域化
が読み取れた。
 以上を総括すると、福井県内企業では、製造業や一部の卸・小売業を除
いて、グローバル化への対応は活発とは言い難く、この事実は、 6割以上
の企業が「海外展開(海外との関係強化)を今のところ実施していない」と
いう回答からも示唆することができた。また、今後についても、建設業や
サービス業を中心に 3割の企業が「海外展開(海外との関係強化)は考え
ていない」と答えており、県内企業ではグローバル化をさほど意識してい
ない企業も少なくない事実が読み取れた。
 ところで、最近、ふたたび話題となっているニュースにTPP参加問題
がある。この問題は、国境を超えた市場の統合・開放などを通じて、地球
規模でさらなるグローバル化・ボーダレス化が進化することを示唆するも
のである。
 それとともに懸念すべきことは、新興国の発展により新興国から先進国
へ新たな技術やノウハウが逆流入し、先進国の市場や生産体制そのものに
影響を及ぼす可能性であろう。そのため、将来的に国際展開を検討する企
業では、生産拠点はあくまで地域に残し、新興国から素材、部品や技術ノ
ウハウを輸入し利用することでローコストをはかること、さらに完成品自
体を輸入し国内市場或いは海外市場に回すことも選択肢の一つとして考慮
しなければならない。また、建設業や、サービス業などの内需を主とする
企業においても、TPPなどの参加が具体化すれば、これまで以上にグロ
ーバル化の影響を受けることが予想される。従って、こうした企業では、
先進国と振興国間での技術・ノウハウの相互移動を逆手にとり、うまく活
用しながら国内需要の掘り起こしに役立てる手法を検討すべきであろう。
具体的には、自社の流通そのものを見直し、品質やコスト面で競争力の高
い海外品にも目を向けること。また、海外と競合する製品を国内で生産す
る企業においては、今後はこれまで以上にコスト競争力の追求や付加価値
品の生産を求められることを意識しなければならない。そのためには、め
まぐるしく変化する国際情勢に対しその情報収集力を高める意味からも、
海外企業、海外市場との関係性強化を図る手立てを早急に検討することが
重要ではなかろうか。




                   (地域経済研究所 南保 勝)



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