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     VOL.80/ 2 0 1 1.11 .30 (WED) 発行

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ベラルーシ・ウクライナ視察 ―チェルノブイリからの教訓―

 10/31〜11/7の約1週間に渡り、福島大学清水副学長を代表とする視察調
査団に参加した。ベラルーシ・ウクライナ両国(以下、「両国」と記す)
は、1986年のチェルノブイリ原発事故により大きな被害を受けた。本調査
は、大惨事から25年間における両国の現状と対応を学び、そこから福島の
復旧・復興に向けての教訓を得ることを目的としている。
 視察で得られた教訓のうち、本コラムでは「合理的考え方とふるさとを
思う気持ち」と「正しく怖がる」の2点について書き留めておきたい。
【合理的考え方とふるさとを思う気持ち】
 両国では放射能に対して合理的に向き合っている。基準値が絶対的な判
断基準となっており曖昧さはない。内部被爆については、食物の管理と全
住民の健康診断によって、現在ではコントロール可能であるという。除染
に関しては費用、汚染土の処理問題に、農地に関しては表土をはがすこと
による肥沃度の問題、宅地に関しては住民の移転費用を勘案し、一部の必
要な個所のみを除染し、後は汚染度に合わせて対応(土地利用の変更、埋
設、放置等)している。詳細な汚染度マップを作成し、土壌の状況と各作
物の放射性物質の吸着特性によって耕作する作物を決めるなど、除染に頼
らない手法による農地としての活用を模索している。
 両国の経済性を加味した合理的な判断は、土地の所有形態や政治体制の
違いがありそのまま福島に当てはめることはできない。さらに日本では、
長年住み続けた家、手を掛けてきた農地への愛着は非常に強く、徹底的に
除染してふるさとへ戻りたいという気持ちは、経済合理性のもとで簡単に
退けられるものでは決してない。しかしながらそのような議論は近いうち
に必ず生じると思われ、両国の合理的な考え方を参考にした上で、ふるさ
とを思う気持ちを尊重した慎重な検討が求められる。
【正しく怖がる】
 現在の立入禁止区域の外で汚染地帯と呼ばれている地域がある。その中
に、事故により一旦全住民が避難した後、多くの住民が帰還している地域
が存在している。そのようなある村では、放射能に関する情報センターを
学校に併設しており、食物の放射線量を計測するとともに生徒にその知識
を教えている。ここでは合理的に正しく怖がることを通じて、住み慣れた
ふるさとで健康に暮らし続けるということが、長年に渡って普通に行われ
ている。
 現在の福島県内の新聞では、連日、各地の放射線量の数字が事細かく掲
載され紙面の多くを割いている。情報の開示は、当時の両国とは比べるべ
くもなく格段に進んでいる。しかしながらこの情報過多とも言える状況の
反面、数字の意味するところを正しく共有していくことについてはまだま
だ努力の余地があるように思える。住民の必要以上の怖れや情報洪水によ
る麻痺を無くすべく、情報発信者は常に受信者の反応を敏感に捉えて対応
していくことが求められる。

【ご参考】個人ブログ(感じたことをありのまま記載)
 https://sites.google.com/site/seiichiegawa/

(地域経済研究所 講師 江川誠一)




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