========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.81/ 2 0 1 1.12 .28 (WED) 発行

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 東日本大震災から九ケ月。巷は「第九」が響く年の瀬。被災地釜石の、
ある中学校の全校生徒が「九(苦)難の先にある歓び」を想い、夏から練
習を重ね年末恒例の市民合唱団に混じり見事歌いあげたという。人生は九
(苦)であると釈尊は説く。日本はいま九重苦にさいなまされている。有
史以来の円高・EU経済危機を端とする世界経済への深刻な影響懸念、そ
れに今度の震災、人口減少、少子化、超高齢化、生活不安等々とても九で
収まらない。苦(九)るしい時の神頼みではないが、こういう時人々は九
(救)世主の登場を願望する。しかし短絡的思考は禁物だ。九重苦を試練
と受けとめ乗り越える知恵がいる。それは歴史に学ぶこと、そうすること
で未来が見えてくることがある。
 
 さて震災復興対策を柱とする今年度三次補正予算がようやく成立した。
復興計画の本格的始動を期待したい。しかし事は容易ではない。地震大津
波の被害に加えて福島原発災害が加わっているからだ。ここでは前者に焦
点をあてて先行経験の歴史に学びながらコミュニティの復興のあり方を小
考する。
 7年前の2004年12月インドネシアのスマトラ島沖地震津波。疾風のよう
に押し寄せる大津波の映像は、その後の3.11三陸大津波と重なり脳裏に強
烈に残る。その「災害復興と住民の再定住、コミュニティの復興」につい
て、さきごろ開催された金沢大学主催シンポジウム(注1)においてシア・
クアラ大学津波災害減災研究センターの専門家から次のような興味深い報
告があった。
 当該地震はマグニチュード9.3、震源域約1300qで東日本大震災の2〜3倍、
津波高さは平均10m(地形により34m)、インドネシア共和国の避難人口
55.6万人、死者12.9万人、行方不明3.7万人。(なお被災はインド洋沿岸の
アジア・アフリカ諸国に及び死者・行方不明者の総計 23.3万人にのぼる津
波災害史上最大の被害)。州都バンダ・アチェ市(人口約22万人、面積65ku)
を中心に人口の80〜90%が犠牲となりコミュニティは壊滅した。
 ところで復興計画は国連をはじめ国際的支援によりわずか5年後の2009年
に復興計画の目標を十分に達成する。住宅、学校、福祉施設、道路、港湾、
空港、農地等いずれも被災量を上回る実績をあげている。しかしコミュニ
ティ復興の観点からみると課題が少なくないという。
 当局は復興マスタープランにおいて津波の被害をうけた海辺から2q幅の
低地についてグリーンベルトを指定し建築禁止とし、一方高地へ移転させ
る住宅再建地区をきめた。ところが、実際には住民の理解は得られずにグ
リーンベルト区域では住宅等が勝手に建設され住宅地がすっかりできあが
っている。なぜ住民は高地移転を拒否したのか。理由は、被災者は漁師を
中心に海との関係が深いことから高地に移れば漁業をやめざるをえず、そ
のための転職スキルを身につけることに大きな不安があったためという。
またグリーンベルトは建築規制のため漁業用倉庫が建築できず、漁業維持
上の課題になっている。
 次に、復興住宅は先述のように被災戸数を上回って供給されたが、入居
者のいない状態、つまり空家が相当数存在している。その中には一部住民
(被災者)の手により窓ガラス、外壁だけでなく室内まで壊されている住
宅が散見される。住宅は建設されたが、コミュニティの復興につながって
いない。これはどうやら国際的「支援バブル」により復興戸数が量的に競
われ被災者住民のニーズ(意向)と乖離した復興が急がれたためと考えら
れる。理想論と現実論の乖離ということではすまされない課題が浮かび上
がってくる。

 この先行経験は、しかし示唆的である。東日本大地震の復興会議では理
念として高台移転が示された。現在復興プランについて地元の間では合意
形成の正念場にある。海に根ざした漁業という生業の生活再建をどのよう
に描くのか。漁村集落単位で復興プランの合意形成は本当に悩ましい。復
興への道のりは時間との闘いでもある。被災自治体の側も市民の意向は反
映するつもりで、提示した高台移転計画案の変更を拒むものではないとい
う姿勢をとっている(注2)。また高台移転といっても土地が限られてい
ることからすべて移転は不可能という事情もある。住民が判断可能な情報
や代替案をわかりやすく提示して生活像の具体的な姿を共有できるような
プランづくりが最大の課題である。生活、雇用・仕事の再生がコミュニテ
ィの復興と深く関わっている。スマトラの経験は、新興途上国の他人事で
はなく、震災復興の原点を教えてくれていると思う。
             
 さて今年の自坊の除夜の鐘つきでは、東日本大震災犠牲者の鎮魂と九重
苦(99)を超えた百八の煩悩と共に生きるほかないことを覚り、来年が希
望の年となることを祈念し、あわせて当メールマガジン読者の皆さんに感
謝申し上げます。来年もよろしく!
 最後にクイズをひとつ。この文書で九は何回使っているでしょうか。

(注1)金沢大学創基150周年記念講演・シンポジウム「東日本・スマトラ
・四川の経験から考える『住み続けられる地域』に向けた復興・再生」は
2011年12月9日開催。
(注2)陸前高田市のケースの報道「河北新報ニュース」(2011年11月6日)



                 (地域経済研究所長 北條 蓮英)




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