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     VOL.82/ 2 0 1 2.2 .1 (WED) 発行

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特別シンポジウム「東日本大震災の教訓−あらためて原子力と向き合うた
めに」を終えて−原子力立地地域からの情報発信を考える−

  1月26日に福井県国際交流会館で開催された特別シンポジウムでは、大
変多くの方のご来場を頂き、県民の皆さんの高い関心の下で有意義な議論
ができました。関係いただいた皆様に心よりお礼を申し上げます。筆者も
パネリストとして参加させていただくとともに、日頃から原子力と地域経
済の関係を研究していますので、シンポジウムを通じて考えた点を少し述
べたいと思います。
 まず橘川武郎氏(一橋大学大学院教授)による記念講演「福島と福井 
原子力を見つめる視点」では、最後に強調されていた「地域からの情報発
信が重要である」という点に共感した。というのは、原子力をはじめとす
るエネルギー政策の方向性と立地地域の関係は、これまで国の政策を前提
として地域がそれに対応する形をとってきた。それは今も変わらないよう
だ。つまり、国の政策にとって立地地域は、エネルギー政策の根幹が固ま
った上で「地元の理解を得て推進する」と位置づけられるにすぎない。立
地地域は国の政策にとって末端の部分でしかなかったと言える。
 これに対して橘川氏は、むしろ地域がエネルギー政策を先導する姿勢が
必要だと訴える。地元の対応がエネルギー政策の転換を促す時代が訪れて
いるのかもしれない。福井県を始めとした立地地域では日常的に原子力と
向き合ってきた。とりわけ福井県では40年という長期間にわたっているこ
とから、原子力発電所は生活に違和感なく溶け込んでいる。生まれた時か
ら原子力発電所がそこにあった、という人も多いだろう。また、震災を機
に原子力の安全性が問われることとなったが、地域として安全性を高める
努力をしてきたのは消費地ではなく供給地すなわち立地地域である。今後
のエネルギー政策を考える上では、立地地域が情報発信を積極的に行い、
「地元の状況を国が理解すること」が不可欠なのではないか。
 パネルディスカッションは、さっそく立地地域からの積極的な情報発信
がなされた。地元の視点から原子力発電やエネルギー政策を捉えると、国
で行われている議論にはない切り口がある。今回議論されたリプレースや
原子力関連技術の応用、安全対策の強化だけでなく、多くの論点で地域の
視点を取り込む必要があると感じた。福祉や行政改革など地方が主導した
取組みが国の政策に結実しているように、原子力政策でも地方の主導性を
発揮すべき部分は大きくなっている。
 今後、立地地域は「地元の理解を得て推進する」ための末端ではなく、
「地元からエネルギー政策を主導する」ための先端であると認識すること
が重要である。今回のシンポジウムの成果として、個人的に考えた点であ
る。地域の視点はより広い分野にわたるので、こうした議論の場を、これ
からも積極的に設けていきたいと考えている。

                               (地域経済研究所 講師 井上 武史)



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