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     VOL.83/ 2 0 1 2.2 .29 (WED) 発行

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「まちづくりにソフトカーの導入を」

 高齢社会での都市交通として「ソフトカー」が注目されている (注1)。
ソフトカーとは、道路によって異なる最高速度を設定し、それを外部表示
する装置が組み込まれた車である(注2) 。
 高齢社会の到来で高齢者が交通加害者にも被害者となる割合は高まって
いる。福井県でも10年間で全交通事故件数は1.1倍に増加しているのに対し、
高齢者の交通事故件数は1.5倍に増加し、高齢運転者の交通事故件数は1.8
倍に増加している(注3) 。福井県の世帯あたり自動車保有率は全国で最も
高く、移動は自動車に依存する割合が高い。これは全国の地方都市はほぼ
同様の傾向であり、地方都市における移動手段として欠かせない。しかし、
交通事故の加害者、被害者となる割合も高い。この二律背反の課題を解決
する決定的な方法はないが、本稿で紹介するのは、ソフトカーの導入をで
きるところから導入してはどうかという視点からである。
 まちづくりについても、車両制限やスピード制御について行われている。
例えば、トランジットモール(Transit mall)は、歩行者空間・道路に、
バス、路面電車、タクシーなどの公共交通機関の進入・運行が許されてい
る区域で、歩車共存道路である。国土交通省の『海外事例90』では、ドイ
ツのフライブルグでは、「街に賑わいが復活し、公共交通のみが低速で運行
するモール内では、交通事故が激減、排気ガスや騒音といった諸問題も同
時に解決された」 (注4)と紹介している。また、ボンネルフ(woonelf)とい
う、車を徐行させる目的で街路を曲げる等、歩行者優先で歩車道を一体化
させた街路もある。これらの街区整備は都市計画との関連で実施されるこ
とが多く、多くの時間と経費を要する整備である。
 ソフトカーを利用することで、例えば、生活道路や人通りの多い繁華街
などでの制限速度を時速15キロ、あるいは10キロに制限するなど、歩行者
と自動車が安全に共存できる可能性を持つ。住宅地での子供の飛び出し事
故、子供を乗せた自転車の事故などの悲劇を考えると生活道路で車両の速
度を制限することの不利益より、安心という効果は大きく、生活に大きな
支障がないとも考えられる。2010年6月に国土交通省が、交通基本法の考え
方の(案)(注5) を発表した。報告書は多様な交通手段の再構築を提唱して
いるが、必ずしもスピードが重視された交通移動手段を否定するものとは
なっていない。
 コミュニティでの移動手段は、必ずしもスピードではなく、より、安全
安心な移動手段が重視されるようになるだろう。速度制限の場所を広げる
ことで、歩行、自転車、公共交通の利用が促進される。ソフトカーの導入
によるまちづくりについては今後の重要な視点の一つになるだろう。ソフ
トカーの導入は、決して車を否定するものではない。マイカーの有効性を
評価しつつ、使用についての新たな考え方を試みるものである。先の朝日
新聞の報道では、提唱している小栗教授によると、大震災の被災地の復興
を通じたまちづくりを考えるきっかけとなる可能性をみている。
 ソフトカー導入が震災にあった都市のまちづくりだけでなく、人口減少
の時代に地域のあり方を考えるきっかけとなることを期待したい。

                (地域経済研究所 准教授 小川雅人)

(注1)例えば、2011年10月1日朝日新聞「被災地に優しい走り」等で、ソフ
     トカーが紹介されている。
(注2)小栗幸夫(2009)『脱スピード社会』清文社に詳しい。
(注3)福井県警HPより
www.police.pref.miyagi.jp/hp/kikaku/koureisha/koureisha.htm
(注4)国土交通省HP 
www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/soukou/mobility/torikumi/jirei_90.pdf
(注5)国土交通省(2010) 『交通基本法の制定と関連施策充実に向けた基本
     的な考え方(案)〜人々が交わり、心の通う社会を目指して〜』




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