========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.84/ 2 0 1 2.3 .29 (THU) 発行

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「県内企業の対東アジア進出の現状と課題」

 
 県内企業の対東アジアへの進出は1990年代後半から始まったが、その投
資先は中国では上海、江蘇、浙江などを含めた華東地域、東南アジアでは
タイに集中している。県内企業の海外進出のそもそもの目的は海外の安価
な人件費を求めるための「コストダウン型進出」であるが、最近、「随伴
型進出」も増えて、経営が順調に拡大している。
 「随伴型進出」とは顧客としての大企業は海外に進出したため、それに
随伴して海外に行くということであるが、こういう場合、安定的な顧客が
あるので、資金回収難などの経営リスクが少なく、成功しやすいタイプで
ある。
 さらに最近の新しい動向としては、従来、海外進出した大企業向けの部
品供給をねらって進出した県内企業は、現地で蓄積された経営ノウハウと
人的ネットワークを活かして、現地の大手ローカル企業にも部品を供給し、
商圏を拡大している。むしろ、今後の東アジアでは、このような中小企業
にとって、無限のチャンスがあり、県内企業の将来の発展方向であろう。
 即ち、県内における多くの中小企業は大企業へのサプライヤーとして、
自分の製品を持たずに、大企業への部品供給を中心に、特定の分野に生産
を特化して、すぐれている技術を蓄積するだけでなく、徹底的に品質・納
期管理を行って、納入先の大企業に最高のサービスを提供している。これ
らの中小企業は大企業との間、安定的な取引関係を通じて、日本産業の国
際競争力を支える巨大な裾野産業を形成させた。
 東アジアでは、中国にも、韓国・台湾にも、いまの東南アジアにも、こ
ういう産業システムが存在していない。これは日本にしかない産業システ
ムである。そのため、日本の大企業と中小企業はセットで海外進出するの
も、こういう特殊な産業システムの海外移転でもある。
 いまの東南アジアではベトナムでもタイでも、経済は成長してはいます
が、ローカル企業による裾野産業はほとんどない状態である。中国では裾
野産業はある程度で出来ているが、日本とは比べ物にならないほど弱いの
である。今後、最終財産業の発展に伴って、資本財・中間財・素材への需
要が益々高まってきて、巨大な市場になる。即ち、東アジアでは巨大な中
間財・資本財・素材の市場が日本中小企業の目の前で眠っている。この分
野は日本中小企業の活躍が出来る一大領域になるであろう。
 しかし、これらの中小企業の海外進出に伴って、その生産も海外に移転
し、本社での生産が減っており、地域の空洞化をもたらすのも現状である。
今後、如何に海外生産拡大に伴う本社機能の転換と拡大、新しい事業の育
成は重要な課題となり、産官学共同で真剣に取り組むべきである。

                    (経済学部 教授 唱 新)
 
 


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