========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.86/ 2 0 1 2.5 .31 (THU) 発行

=================================

地元の熱意が作り上げた「旭川買物公園」の成功要因と今日的課題

 北海道旭川市の「平和通買物公園」は、1972(昭和47)年に全国ではじめ
て恒久歩行者天国のモールを設置し、一世を風靡したショッピングモール
である。本稿は「平和通買物公園」開設の要因と現在の課題についてみて
みよう(注1) 。
  北海道旭川市の「平和通買物公園」は東京銀座の歩行者天国よりも2年遅
いが(注2) 、1972年に恒久歩行者天国として開設した。延長1qの買物公園
は、8街区で形成されている。
 旭川買物公園は1963年当時37才の五十嵐公三氏が市長に就任した頃から
始まった。当時は一地方都市としての旭川は拡大する経済の中で農業と自
衛隊の街から飛躍する意欲に溢れていた。その一つとして旭川市の中心市
街地である平和通商店街の繁栄・魅力づくり、旭川のイメージアップを図
るために買物公園が検討された。その検討のために、当時交通戦争と呼ば
れる交通死亡者数が最悪の時期で、ヨーロッパのようなゆったりと買い物
が楽しめる緑の空間をつくり、人間性回復をアピールすることを意識した。
また、バイパス道路など近郊の自動車道路整備、現在のJR函館線の電化複
線化で、札幌への購買流出が懸念された。札幌は1972年に札幌オリンピッ
クが開催されることが決まっており、その準備として地下鉄・地下街の整
備が進んでいた。北海道での札幌の拠点性の強化が脅威となっていたので
ある。
 買物公園となる旭川平和通はほとんどが国道で、恒久の歩行者天国は不
可能と思われるほど実現が難しかった。しかし、市長をはじめとする商店
街、商工会議所等地元の熱意と根気で1969年に市・商店街・商工会議所・関係
官庁合同会議が開催された。関係官庁の「現行法では認められない」との
見解を押し切り1969年に社会実験にこぎつけた。商店街は許可の最終決定
を待たず、造園設計・資材を先行発注するという不退転の行動に出た(注3)。
1969年8月、実験開始4日前に北海道警察から社会実験に限定して道路使用
許可が出た。理由は「夏祭り開催で混雑するから歩行者を保護する必要が
ある」という理由である(注4) 。国道管理者である旭川開発建設部は道路
占用許可を出さないが黙認というかたちで支援をした。社会実験の成功を
背景に買物公園の恒久歩行者天国は実現に向け大きく動き出した。1970年
から1971年に恒久的買物公園とするために、国道の市道への移管が決まっ
た。
 1972年に買物公園の造成工事が始まり、1972年6月にオープンした。当時
の五十嵐市長は「買物公園はいつでも作り直せる。買物公園は完成したの
ではなく、出発したのだ。今後それぞれの時代の人が知恵を絞って欲しい」
と祝辞を述べている。
 開設から30年ほど経ち施設、店舗老朽化が進みリニューアルが済んだ。
しかし、周辺の環境変化の影響もあり、課題が顕在化している。例えば、
中心市街地の小売業年間販売額は1991年145,345百万円であったのが、2007
年は70,123百万円とほぼ半減し、市内全体に占める中心市街地内の販売額
シェアも同期間比較で17.4%とほぼ半減している(注5)。歩行者通行量(注
6)も、買物公園では全体で1989年は218,125人であったのが、2008年では
132,157人と約6割しかない。地点別で見ても最も多いのは西武B館前(駅に
最も近い地点)20,739人、最も少ないのは矢口歯科前(駅から最も遠い地点)
で1,143人である。全体での期間格差、地点比較の格差はともに非常に大き
い。街区延長1kmと長い商店街で全体の賑わいを維持することは難しいにし
ても空き店舗が増え、専門店が減少し、駅近くと駅から離れた地区の「南
北格差」は重要な課題となっている。買物公園の最大の課題である。
 要因としては@中心街の居住人口の減少、A郊外型大型店の増加、B専
門店の減少があるという(注7)。確かにこれらの要因は全国の中心市街地に
共通する課題である。ただ、街長1kmに及ぶ商店街の格差ができるのは当然
で長い距離を歩かせる仕掛けが必要で、特に駅集中の街区整備に疑問無し
としない。この事例に学び、しっかり検証し今後のまちづくりの参考とし
たい。
                 (地域経済研究所 教授 小川雅人)

注1 この内容は主に、旭川平和通買物公園企画委員会(1969)『買物公園も
    のがたり』を参考とした。
注2 東京銀座の歩行者天国は1970年に始まったが、週末祝祭日だけで恒久
    歩行者天国ではない
注3 旭川平和通商店街振興組合『hoccol』創刊号1969
注4 北海タイムス1969年8月23日他
注5 商業統計
注6 旭川商工会議所(2008)「歩行者通行量調査」、金・土・日の3日間の平
    均1日通行量は12時間換算、調査地点合計
注7 旭川市『こうほう旭川市民2001』10月号



         このウィンドウを閉じる