========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.88/ 2 0 1 2.7 .31 (TUE) 発行

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コラム「再生可能エネルギーの経済性(その2)」

 筆者は昨年5月、当メールマガジンに「再生可能エネルギーの経済性
(その1)」と題したコラムを書き、その普及には、設備利用率の向上と
電力需要者の理解が課題であると指摘した。それから1年以上が経過し、
この7/1には再生可能エネルギーの固定価格買取制度がスタートするとと
もに、エネルギー政策についての国民的議論がなされようとしている。
この2つの事項は、電力需要者の理解と覚悟が極めて重要となるため、本
コラムでは関連情報の提供と若干の解説を試みたい。
■固定価格買取制度
 この制度に則った2012年度における再生可能エネルギーの調達価格は、
太陽光42.0円/kWh、風力23.1円/kWh等である(1)。エネルギー・環境会議
の試算によると、2010年の平均発電単価は約8.6円/kWh(2)であり、単純比
較は難しいが上述の調達価格はこれをかなり上回っている。一方で電力需
要者の負担となる再生可能エネルギー賦課金は一般家庭で約0.29円/kWh (3)
となった。調達価格の上昇に比べて賦課金が低くなっているのは、太陽光
等の総発電量のシェアがまだかなり小さいからである。調達価格と賦課金
は、再生可能エネルギーの普及拡大と需要者負担とのバランスを考慮しつ
つ、再生可能エネルギーの発電単価とそのシェアをもとに毎年見直される(4)。
 この固定価格買取制度は、現状では競争力を持たない再生可能エネルギ
ーを早期に普及させ技術革新や量産効果を図ろうとするものである。脱原
発依存に向けた施策ではなく温室効果ガス排出量削減を目的としていたこ
と、また、原子力発電所停止の影響による電気代値上げが議論となるなか
でのスタートとなったこと等により、筆者の私見ではあるが一般家庭での
理解が十分に図られているとは言い難い。普及促進に向けた政府の取り組
みが一層必要であるとともに、一般家庭においても太陽光発電の導入等も
含めた積極的な学習や行動が求められる。
■エネルギー・環境の選択肢
 2010年6月に改定されたエネルギー基本計画では、原子力発電を基幹電
源とし、電源に占めるその割合を2030年には45%にまで拡大するとしてい
た。しかし、福島第一原子力発電所の事故により、可能な限り原子力発電
を減らす方向へ政策は大きく転換した。政府は2030年における原子力発電
の割合について0%、15%、20〜25%という選択肢を示し、この3シナリオ
について国民的議論を開始するため、専用Webサイト(5)、パブリックコメ
ント、全国11都市での意見聴取会、討論型世論調査を準備している。
 シナリオの検討にあたっては、原子力発電の安全性が全ての前提となる
ことは言うまでもないが、本コラムシリーズは再生可能エネルギーの経済
性に対する理解なくしてこの議論はできないという立場に立つ。どのシナ
リオにおいても、再生可能エネルギーの普及促進を進めるため、固定価格
買取制度等を通じたかなりの経済的な負担が生じるという試算が示されて
いる(6)。その妥当性も含めてしっかりと検討するためにも、専用Webサイ
トで得られる情報を予断なく真摯に読み、パブコメ等に限らず身近な所で
も「国民的議論」を盛り上げていくことが重要である。

(1) 太陽光は出力10kW以上、風力は20kW以上の場合でいずれも調達期間は20年
(2) コスト等検証委員会コスト等検証委員会報告書、2011年12月
(3) 電気使用量300kW/月(約7,000円/月)の一般家庭では87円/月の負担。
  ただしこの金額は電力会社によって異なる
(4) 一度売電がスタートした方の買取価格は、当初の契約の価格で固定される
(5) 話そう"エネルギーと環境のみらい" http://www.sentakushi.go.jp/
(6) 0%シナリオにおいては、固定買取価格をより高水準にして再生可能エ
ネルギーをさらに導入する必要があることから、現状の発電単価8.6円/kWh
が15.1円/kWh、家庭の電気代上昇分が4,000〜11,000円/月と試算されている

                (地域経済研究所 講師 江川誠一)


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