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     VOL.91/ 2 0 1 2.10 .31 (WED) 発行

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「自治・分権再考〜自治を志す君たちへ」10時間集中セミナーに参加して

  10月6日(土)から8日(月・祝)までの3日間、福井駅前のアオッサにて、
自治体学会主催による表題のセミナーが開催された。自治体学会全国大会
が2009年に福井市で開催されて以来3年ぶりの学会行事であり、学会運営委
員として筆者は同セミナーの実行に関わった。
 講師は西尾勝先生である。西尾先生は東京大学で教鞭をとりながら地方
分権改革に長年にわたり携わってこられ、研究と実践の両面で地方自治を
先導されてきた。その先生が3日間も、しかも地元福井で集中セミナーをし
てくださるのだから、きわめて貴重な機会である。筆者は裏方として参加
するだけでなく、個人的にも大きな関心を持って受講させていただいた。
 セミナーでは、先生の基本メッセージに大変驚かされた。それは、「こ
れ以上の分権化を求めて右往左往することは暫く差し控え、それぞれの自
治体の現場で実践の質を高め自治の本領を発揮することに、皆さんの関心
とエネルギーを向け直してほしい」というものである。すなわち今後の分
権化は制度改革をさらに進めるよりも、これまでの改革を活かした自治の
実践がより重要だ、ということであろう。
 振り返ると、1995年から始まった第一次地方分権改革は機関委任事務の
廃止を始め国から地方への権限委譲が中心であった。権限委譲により自治
体の事務執行における裁量の余地が拡大し、自治体は、より住民ニーズや
地域の実情に即した施策が可能になったのである。だが、その裁量をどう
活かすかは、自治体に委ねられていると言ってよい。拡大した裁量の余地
を自治体が活用できなければ、第一次分権改革の成果は実りあるものにな
らないのである。
 1993年から2007年まで自治体勤務経験を持つ筆者は、まさに第一次分権
改革の渦中に自治の現場に身を置いていた。しかし、その間に大きな変化
を感じたかと言えば、残念ながらほとんどなかったと言ってよい。あった
とすれば、分権改革に合わせて(半ば自動的に)条例等の改正が行われた
ことくらいであろう。
 最初の配属先(税務課)では「まず税法を理解せよ」と上司に指導され
た。次の配属先(財政課)でも「まず財務規則を理解せよ」と言われた。
今でも同様の慣習があるのではないか。もちろん法律や規則を知らなけれ
ば仕事などできるはずもないのだが、「そこに書いてないことはできない、
してはいけない」という意味も含まれていたように思う。
 地方分権改革を機に、住民ニーズや地域の実情を従来以上に重視するよ
うになったかと言われると、こちらも判然としない(重視していることは
間違いないのだが)。また、廃止された機関委任事務が具体的に何の事務
かもしっかり把握していたとは言い難い。少なくとも筆者は第一次分権改
革の成果をあげていない1人ということになる。
 第一次地方分権改革で裁量の余地を拡大することは、こうした法律や規
制の理解から一歩踏み出し、住民ニーズを高いレベルで実現するために
「そこに書いてないことを実現できる可能性はあるのか」を考えることで
あろう。「これ以上の分権化が進まなければ自治体の現場は依然として中
央集権の閉塞感に閉ざされてしまったままだ」というのならばともかく、
少なくとも現状はそのような雰囲気ではないと思われる。以前、筆者は分
権改革よりはるか以前に「現行制度でも裁量の余地は大きい」と、先進事
例の自治体担当者から何度か聞いたことがある。今後の分権改革は今まで
以上に中央省庁等の抵抗により難航することが予想される。だとすれば、
地方分権は次の制度改革の前に、現行制度でどこまで裁量を発揮できるか、
実践力が問われている段階にあると言える。
 分権改革の先導者からそのようなメッセージを受け取ったからこそ、大
きな衝撃であった。


                              (地域経済研究所 講師 井上 武史)


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