========地域経済研究所 eメールマガジン=========

     VOL.92/ 2 0 1 2.11 .30 (FRI) 発行

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まちづくりの住民参加のあり方

 最近、福岡県直方市から4人のNPO「直方川づくりの会」のメンバーが来福
した。直方市で住民参加の地域活性化の実績を残した功績で2001年に国土
交通省、(社)日本河川協会から表彰されたNPOメンバー4人である。このNPO
は代表である野見山氏のリーダーシップのもと、直方市の街中を流れる都
市河川の遠賀川を利用したまちづくりを市民参加で推進している。全国の
まちづくりに市民の参加の重要性が説かれ実践しているところも少なくな
いが、このNPOの活動は特筆に値する。このNPOの活動を知ったのは、昨年
度まで2年間にわたり、福井県の地域貢献研究で「足羽川の利活用にかかる
調査研究」である。このNPOが中心となりまとめた「夢プラン」というプロ
ジェクトの進め方から学んだのは、住民参加による合意形成についてであ
る。1つには、住民参加型課題解決のプロセスについて、2つには、合理的
な合意形成手法についてである。
 このNPOは、野見山代表の人的ネットワークが大きな役割を果たしている。
参加者は自由意思である。参加したい時に参加することが認められている。
野見山代表は、「明日やめてもよい、来たい時に来てよい」をモットーに
している。会員になっても家庭の事情で1年以上、中には3年も出てこない
人もいたという。また出てきた時に、「来たことを受け入れる」という。
参加できなかったことを話題にはしない。参加者は男女半々であるが、女
性は誘わないと参加しにくいという。「緩やかに束ねる」ことが野見山代表
の手法である。
 合意形成のための会議のルールは、自分はどうしたいか、どうあって欲
しいかについて「50年後の夢」のイメージを語ることから始めた。参加者の
「夢」の共有とそこで決まったことは公開する。地域住民は、NPO法人「直方
川づくりの会」のメンバーが主体であるが、特定はしないという。実現性を
高めるためには「代表していると思われる人」がキーワードである。これ
は発言に責任を持ち実行できることが必要だからである。市役所の職員も
参加するが、役職での参加ではない。野見山代表によれば、この「夢プラ
ン」では市役所の中でも市長の理解と命令を受けた職員がいたことは幸運
であったという。ただ、行政からの参加者は個人の資格、関係者であって
も参加は自由であくまでも組織を代表しないことがルールである。また、
会議は一方的な要望には終わらないとともに、発言する以上実現に向け努
力することの責任を持つこともルールである。河川行政担当は、地域の夢
をかたちに変える役割をもつと同時に、定期異動があるにしても地元の熱
意を斟酌し、後任に引き継いでいくことが期待されている。
 この「夢プラン」のプロジェクト運営についてまとめると次のようにな
る。住民参加型課題形成のプロセスは次のようである。第1段階は情報の共
有である。議論しながら改善意識を持ち、危機感の共有、行政・市民組織・
各主体の形成、夢のイメージを共有し、その議論を公開する。第2段階は、
行政や、住民、企業等の主体間の交流である。相互理解・学習の場の設定で
ある。参加者は個人の資格、関係者であっても参加は自由で組織を代表し
ない。発言の自由を保証するためである。また、学習の機会でもある。議
論に専門家・学識者を招聘し、専門的意見をもらう。ただし、あくまで推
進は住民側である。第3段階は、役割分担による実践である。このためには
これまでの信頼関係の醸成が背景になっている。発言は自由であるが、提
案は義務を負う、勉強することは責任がある。行政の責任者の理解と命令
を受けた職員の参加は望ましいが、役職で参加するのではなく、地域の夢
をかたちに変える役割である。第4段階は、合意形成である。何時まで、誰
が実施するかを決めないのがルールである。参加する地域住民は特定しな
いが、地域に対するミッションがあることが条件である。
 直方市でも、ヒアリング後意気投合して居酒屋でお互いの地元を自慢し
あった。2年ぶりに福井で簡単なシンポジュウムを開いた。その後地酒を傾
けた。きっと福井のカニを満喫できたと思う。ただ、来訪した4人とも女性
である。まちづくりは人づくり、時間がかかるという信念ですすめてきた
この活動も17年目である。まちづくりは女性の参加と信頼関係が欠かせな
いことを教えてもらった。



                              (地域経済研究所 教授 小川 雅人)


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